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good vibration  作者: リープ
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第30話 「がんばらなくちゃね」 (上杉亜衣編)

「後どれぐらいで退院できるの?」

「うーん……一週間ぐらいだと思うよ」

「一時はどうなるかと思ったけど良かった、元気になって」

 キャンプの一件があってから一週間経つ。

 夏休みになって特にする事もない私は今日も美世の病室にいる。

「今生きていられるのも澄川君のお陰だよ」

「んな大袈裟な。元はといえばアイツが――」

 すると美世は首を振る。

「違うよ。むしろああなって良かったと思ってるぐらいだから」

「うーん。私には分かんない」


 美世と澄川の間に何が起こったか私は知らない。

 ただ、美世の様子を見ると悪い思い出ではないみたいだ。

「ねぇ、亜衣ちゃん」

「なに?」

「気のせいかもしれないけど澄川君って最近変わったよね」

 澄川が変わったと感じたのは私だけじゃなかった。

「気のせいじゃなとおもう。私も光彦か正宗か分からないというか、キャンプの前後ぐらいから、丁度中間ぐらいに性格になった思う」

「多重人格って治ったのかな?」

「そういうものなのかな? 良くわかんないけど……人格が同化したっていうのに近い気がするけど」

「でも前より優しくなったから良かった」

「あーあ、ノロケですか?」


 それを聞いて美世はため息をついた。

「……人の気持ちって難しいよね。本当に人を好きなるって簡単じゃない。私、気持ちが急ぎすぎたよ」

「え? どういう意味?」

「私もう一回澄川君のこと仕切り直しするね」

 美世はそう言うと窓の方を向いた。

 柔らかく微笑むその横顔が、大人っぽく見えた。


「美世、成長したんじゃない?」

「成長?」

「何となくそう思っただけ。それに美世は若いんだからもっと思い切って行動した方が良いともうよ」

「亜衣ちゃんこそ、がんばらなくちゃ。若いんだし」

「はい?」

「好きな人に気持ちぐらいは伝えたんでしょ?」

 美世の言葉に私は思わず何もいえなくなった。

 彼女には好きな人がいるということは言った事あるのだけれど、相手は知らないからそんな事を言えるのだろう。

「まだっていうか、私のは認められない気持ちだから……」


 焦った私は何とか話題を変えようとした。

「あの花瓶一杯バラ凄いね!! 一体何本あることやら。誰にもらったの? まさか澄川?」

 ホントに見事なバラだった。

 ココへ来た時少し見とれていたぐらいだ。

「違うよ。昨日、真田先生の代理だって言う人が置いて行ったの」

「真田の仕業かぁ……キショ!」

「でも代理の男の子はカッコ良かったよ」

「マジで?」

「うん」

「真田……まさか男を囲っているとか?」

「亜衣ちゃん、そのオヤジ的発想を何とかした方が良いと思うよ……」

 その後も適当に談笑をして、私は病院を後にした。




 何か嫌になっていた。

 夏なので日はなかなか沈まないし、ガキは夏休みだからか、やたら楽しそうに自転車乗ってるし、それに以前に暑いし。

 こんな風に高2の夏が過ぎてゆくのかなぁ……

 最近、病院帰りに思う愚痴。

 病院と澄川の家を往復する毎日じゃあ愚痴りたくもなるよ。

 私はその辺にあった石を蹴飛ばしながら澄川の家に近づく。

「――えっ!?」

 ……と、そこでとんでもないモノを見てしまった。


 玄関口に姉がいて、澄川と話をしていたのだ。

「あいつ……」

 私はダッシュで玄関まで急ぐ。

 二人は私に気付いたらしく一斉にこっちを見てきた。

 近づく私に姉が話しかける。

「亜衣ちゃん。今帰ってきたの?」

「何でココに居るの!?」

「アナタがお世話になってるって学校の真田先生に聞いたから……」

「アイツ、内緒にするって言ったのに!!」

「アイツって真田先生はアナタの担任――」

「お姉ちゃんには関係ないでしょ! それに私は家に帰るつもりないから、とにかく帰ってよ!!」


 この状況を見かねてか、澄川が口を挟む。

「心配するな。お姉さんはお前の着替えを持ってきただけだ」

「えっ……」

「真田先生に『責任は自分が持つから温かく見守ってやって欲しい』って言われてね、私も無理強いしないって決めたの」

 せっかく、意気込んできたものの、少し拍子抜けの展開に私は「……そうなんだ」なんて気の抜けた返事をしてしまった。


 そのまま本当に姉は帰って行き、夜になった。

 私は澄川の部屋で大の字なって寝転んでいる。

「はぁ、私何やってんだろ。夏休みにもなって、こんな部屋でゴロゴロ……バカみたい」

 私はまだ澄川の家で厄介になっていた。

 澄川は一人暮らしだし、出てけとも言わないのでそのままいる。

 ……そういうずうずうしい自分がかなり嫌い。

「そういう事は独りの時か心の中で言ってくれ」

「うるさいなぁ。これはアンタにも言ってるの!! ……そういえば最近仕事行ってないよね」

「この前仕事に失敗したから、なかなか仕事を回してもらえなくなった」


 この前と言うのは恐らく私が邪魔した予備校講師の殺しの事を言っているのだろう。

「アレに関しては悪かったとは思ってないから。そもそも人殺しに良いものなんてないし」

「別に僕だって良い事をしてるなんて思ってないさ」

 何だかイライラする。

 コイツ最近、人殺しのクセに偽善っぽい事を話すようになった。

 それは良い事なのかも知れないけど腹が立つ。

 それは何処から来るのか……それは……

「何? 好きな人のためなら悪い事もしょうがないって言いたいわけ?」

「別に僕は――」

「ねぇ、『好き』ってそんなに偉いわけ? 恋愛が絡めば何でも許されるわけ? バカじゃないの!!」

「……」

「答えられないでしょ? 自分が間違ってる事を認めたくないから答えたくないんでしょ!!」

「上杉」

「何!!」

「お前少し変だぞ」

「あー、うるさいなぁ!! もう寝るから電気消してよ!!」

「えっ、だってまだ8時――」

「うるさい!! うるさい!! みんなうるさい!!」

 布団をかぶり目の周りが真っ暗になると少し落ち着いた。

 あぁ、私が一番うるさい……

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