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good vibration  作者: リープ
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第19話 「望む事」 (浅野美世編)

 夜になると、ゲームをしたり、花火をしたり、お話をしたりしました。

 行きの深刻さはどこかに消え楽しく過ごせました。

 有希ちゃんも、ほぼ普段と変わらない態度で接してくれます。

 ただ気になったのが光彦君の態度です。私を避けているようでした。



 夜も更け、私たちは寝ることにしました。

 亜衣ちゃんはニコニコしながら澄川君に話しかけます。

「はい、澄川。これ」

「何?」

「見たまんまの寝袋。アンタは外で寝て」

「えぇ〜〜〜〜〜〜っ!! ヤダヤダヤダ!!」

 光彦君は足踏みしながら大声で叫びます。

「亜衣ちゃん、いくらなんでもそれは……」

「そう、そう、亜衣。私なら構わないけど」

「ダメ。私がヤダ」

 そういうと涙目の光彦君の背中を押してログハウスから追い出します。

 最初は抵抗していましたが、やがて観念したのか寝袋を取り、外へ行きました。


「いいのかなぁ……」

「大丈夫、大丈夫、夏だし。さっ、寝よ」

「う、うん」

 部屋が暗くなり、しばらくすると2人の寝息が聞こえました。

 私はといえば、光彦君が言った事が気になって眠る事が出来ません。今の私が嫌いだという事は……やはり皐月さんには勝てないのでしょうか?

そう思うといても立ってもいられず、私はログハウスの外へ行く事にしました。



 ドアと開け外へ出るとヒンヤリした空気が私を取り巻きます。

 夏といっても山の中は肌寒いです。虫の音もうるさいです。

 澄川君はログハウスを出たすぐ横で寝ていました。私は近づき澄川君の前でしゃがみました。

「光彦君、起きてる?」

「……」

 私が居る方向と反対を向いて寝ているので起きているかどうか分かりません。

 返事が無いので寝ているのでしょうか?

 それでも私は構わず話しかけることにしました。


「光彦君は今の私を嫌いって言ったけど正宗君はどうなの?」

「……」

「私を好きにならないと殺せないんでしょ?」

「……」

「出来れば私を皐月さんより好きになったら殺してね……」

「――それは無理だ」

「!!」

 澄川君は起きていました。

 私は少し驚いて彼と距離を置きました。

「誰? 光彦君? それとも正宗君?」

 澄川君は相変わらず反対を向いたまま喋り続けます。

「そんな事はどうでも良いだろう。話を戻せば、君がどんな事をしても皐月には勝てる訳が無いよ。彼女は僕達が生きる上での存在意義だからね」

 光彦君でも正宗君でも無い話し方です。

 しかし、今の私にはそんなことよりさっきの言葉のほうが気になります。

 勝てない? 私が?

「そんな……」

「じゃあ、君が死ぬことによって彼女に勝ったと果たして言えるのか? といえば、答えは否だ。正宗の中には好きの区別がないからね。つまり、君は……」

 澄川君はココが聞き所だといわんばかりに間を十分空けた後、言いました。


「死に損だな」

「っ!?」

「まぁ、ぜいぜい皐月の入院費の足しにでもなってくれ」

「ど、どうして……そんな……こと……」

 上手く息が出来なくなりました。

 それと同時にあれほどうるさかった虫の音も聞こえなくなり、目の前が歪んで見えます。私は涙を流していました。

 澄川君はゆっくり起き上がると寝袋を脱ぎ、こっちを見ました。

 しかし、その顔は明るい光彦君の顔でもなければ、暗い表情の正宗君でもありません。

「あ、あなたが……刹那?」

「察しがいいな。だったら、これから起こる事も分かるだろ?」

 そう言ってズボンのポケットから出したのはナイフでした。

「……ウソ?」

「はぁ? ウソだと? お前が望んだことじゃないか。まさか結末はハッピーエンドだとでも言うのか?」

 澄川君はどんどん私に近づいてきます。

 私は怖くて動けません。ここで殺されるのでしょうか?

 私は……私は……私は……

 まだ――

 私はとっさに地面の土をひと掴みすると投げつけました。

 澄川君は一瞬怯みます。その瞬間を逃さず、反対方向に全速力で走りました。

 何処に向かっているのかもわからず、とにかくがむしゃらに走りました。



 どれぐらい走ったのかよく分かりません。

 気付くと山の奥に入っていました。私の息をする音しか聞こえません。

 やがて落ち着いて立ち止まると虫の音が聞こえてきました。

「ここ……どこ?」

 今、自分が何処にいるのか分からなくなりました。夜の山の中は暗いです。私は立ちすくみました。

 じっとしていると、暗いはずなのに色々なものが見えてきます。

 それは目に見えるものではありません。

 不意に有希ちゃんの言葉を思い出しました。

『あれは失恋じゃないから。所謂、恋に恋してた感じ?』

 私もそうだったのかもしれません。

 大切な事が他にあったはずなのに、私は皐月さんと必要以上に張り合っていました。

 皐月さんに勝つ前に大事だったのは気持ちだったのです。

 自分の気持ち。

 相手の気持ち。

 皐月さんは元々関係なかったのです。

 あの時、真田先生は言いました。

『お前、本末転倒って言葉知ってるか?』

 真田先生が私の事をどれだけ理解していたかは知りませんが、その通りです。

 結局は逃げたかったのかもしれません。生きる事、死ぬ事から。

 澄川君に恋する事で今の状態を忘れ、さらに殺されることで自分の人生の結果を彼に丸投げしていたのです。


 でも、私はそれからも逃げました。

 決めたはずなのに。

 死ぬって決めたはずなのに。

 ……死ぬ事も出来ない。

 私はもう戻れません、どこにも……とにかく独りです。

 空を見上げれば、私の手の届かない所で星々は輝いています。

 私の周りは沢山の木に覆われ真っ暗です。

 それは今の自分の状況を表しているようでした。

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