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good vibration  作者: リープ
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第11話 「忘れない」

 時間は既に午前2時過ぎ、でも私は眠くなかった。

 ふと気になった事を話してみる。

「澄川、テレビの上においてあるプリクラの子って彼女?」

「……」

 沈黙かよ。

 静かになった部屋は外からの車の通過音だけが聞こえる。

「黙っている所を見ると元彼女? もしかして未練たっぷり?」

 やはり答えない。

「図星かぁ」

 私は何だか、からかいたくなった。

「いつまで昔の恋引きずってんの? そんなの忘れたら?」

 などと少し冗談めいて言ってみた。

 私は学校での事を忘れるために言ったつもりだった。

 しかし……


「忘れない、絶対に」

「な、なにその言い方……」

 今までの自信なさげな口調とは違う、ハッキリとしたものだった。

 屋上で言った「好きじゃないから」と同じ感じを受けた。

「僕が忘れたら……全ての人から彼女は忘れさられる……」

 ようやく私は澄川の“触れられたくない部分”に触れていることに気付いた。

「ごめん、悪い事聞いちゃったみたい。あのね、私……」

「悪いけど、もう寝る」

 そう言ったきり澄川は会話を断ち切った。私は寝るしかなかった。



 朝、私は目覚まし時計の音で起きた。

 どうやら他人の家で眠りが浅くなると言う事はないらしい。

 ゆっくり起きて、目覚ましを消して辺りを見渡す。澄川の姿はもうなかった。

 机には鍵と置手紙があった。

『朝食は冷蔵庫にあります。出かけるときは鍵を閉めてください』

「アンタは母親か?」

 結局朝食をとって学校へ行く事にした。


 学校に着くと美世が真っ先に私のところへ来た。

「亜衣ちゃん、どうしたの? もしかして家に帰ったの?」

 どうやら美世は私を心配して今日も学校へ早く来てくれたみたいだ。

「まぁ、そんな感じ……」

 すると美世は私を見据えるようにジッと見てきた。

「な、何?」

「何でも無いよ。亜衣ちゃん、後で話しがあるんだけどいいかな?」

「今じゃ駄目なの?」

「なるべくなら誰もいないところで話したいから」

 こんな事を美世が言うなんて珍しかった。

 だから真剣に聞かなくちゃいけない。

「わかった。じゃあ、お昼休みじゃあ時間が少ないから、放課後でいい?」

 すると美世は頷いた。


 そして、いつものように授業が始まる。

 今日の1時間目は運悪く、真田の授業だった。

「真田の授業なら楽で良いよね、何も言われないし」

 そんな声が周囲から聞こえる。私も2日前はそうだった。

 でも今は違う。アイツも人殺しなのだ。

 斜め前を見ると澄川が真面目にノートをとっている。

 後で鍵を返さなきゃ、今日も泊まるわけにはいかないし。

 昨日の事は正直ショックだった。無力、この一言に尽きる

 私は誰も助けられないのかもしれない(誰かを助けられるなんて考える自体おこがましいけど)。

 はぁ、もう考えるのはやめよう。


 てな事を考えていると、携帯にメールが来た。差出人は有希だった。

『今日の放課後、告るから澄川を呼び出してくれる?』

 なんで私が!? 

 っていうか行動早っ!!

 昨日の澄川との会話を思い出す。プリクラの女の子。

 あの口ぶりだと澄川が好きな人だと言う事は間違いない。

 それを考慮して『まだ早いんじゃない?もう少し様子を見てから……』と返信してみた。

 すると、『ダメ。そんなんじゃあ先越される』と返って来た。

「誰に先越されるんだよ」と言うツッコミは後にして……

『大丈夫だよ。もう少し彼の事知ってからでも遅くないって』とやんわり返信。

『そう言ってアンタが告ろうとしてるんでしょ!!』

「おい……」

 まだ誤解してる……

 私は仕方なく折れる事にした。ため息つきながら返信する。

『わかった。じゃあ、澄川を呼んできてあげる。場所と時間は?』



 昼休み、私は澄川に鍵を返しに行った。

 アイツはお昼、いつも屋上にいるので、すぐ見つかった。

「はい、鍵」

 澄川は私をチラッと見ると途端に表情が変わる。

「え〜っ、持ってていいよぉ〜」

 どうやら光彦に変わったらしい。便利なもんだ。


「はぁ? 何で?」

「今日も泊まる所ないんでしょ? だったらぁ〜、ウチにいればイイじゃん!!」

「そういう訳にもいかないの。そんな事よりアンタ放課後、時間ある?」

 それを聞いた光彦は大げさに驚いた。

「なんで!? まさか、チューしてくれるの!?」

「するか!!」

「しょんぼり……」

 どうやら本気でしょんぼりしてるらしい。

「しょんぼりを口で言うなっ!! 雰囲気で分かりなさい。平たく言えばアンタに告りたい子がいるってこと」

「あ〜あ」

 大げさに手でポンと相槌を打つ。

 その後、光彦にしては難しそうなそうな顔をした。


「でも、残念賞!! 正宗君には付き合ってる人がいま〜す!!」

 恐らく、あのプリクラ写真での彼女の事を言っているのだろう。

「分かってる。だから、なるべく傷つけないように、優しく断って欲しいの」

「うーん、光彦そんなのニガテ」

「光彦じゃない!! 正宗に言ってんの!! 光彦で有希に会ったらブッ飛ばすからね!!」

「しょんぼり……」

「とにかく頼んだから。4時に開かずの教室で」

 それだけ伝えると鍵を返し、屋上を後にした。


 そして、放課後になった。

「お願いついて来て」

 有希は拝むように私へ頼む。

「えぇーっ、そういう事は自分でやりなよ」

「手前まででいいからさぁ〜お願〜い」

 有希は普段、口では結構強気な事を言うけど、いざとなればこんな感じ。微妙に私のツボをついてくる。だから何となく憎めない。

「もー、しょうがないなぁ」

「サンキュー!!付き合う事になったら幸せのお裾分けしてあげる!!」

「ははは……あ、ありがと……」


 ということで私と有希が開かずの教室へ行こうすると、後ろから声がした。

「亜衣ちゃん」

 振り返ると、美世がいた。

「あの朝の約束……」

 美世は有希をチラチラ見ながら言う。

 すると有希が私と美世の間に割って入った。

「ゴメンネ、美世。今からどうしても外せない大事な用があるんだ。後で亜衣をちゃんと美世の所へ行かせるから。少しの間、亜衣を貸してね」


 有希の勢いに負けた美世は俯き上目遣いで私たちを見た。

「ごめん、美世」

「うん……じゃあ、後で」

「じゃあ、行くよ!!」

 私の手を引っ張って有希は開かずの教室へ向かった。

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