大精霊マクスウェル』
午前8時の目覚ましヨロシク地震が起きる。
大きい地震。今度は震度6以上ある。祭りの舞台は崩壊。
幸いにも負傷者は今のところゼロなのが救いだった。
救助をしていた私のもとに慌てた様子の剣鬼がやってくる。
「ユエ。校舎裏になんか生えてきたみたいだけど。」
その言葉が一瞬わからなかった。校舎裏に何が生えてきたというのだろうか。
確認するため一人で急いで校舎裏に向かう。裏には精霊門に似た何かが生えていた。
これはどういうことなのか? この世界には精霊門は存在しないはず。
とすればこの門は何を意味するのか? 文献をあさり尽くした私にすらわからない。
意味がわからないと考えていると門が光り輝く。一体何が・・・。
「この大地も久しぶりだ。おや? これは都合がいい。」
男の声と靴が地面を歩く音が聞こえてくる。
口ぶりからするとこの世界ではない場所から来たのでしょう。
「お前が目の前にいるとは。」
「誰のことを言っているのですか! 人違い━━━━。」
視界を取り戻した私が見た人物は普通に存在自体がありえないことが確定している人物。
この男はかつて。行方不明になった男。どの追跡網にも引っかからず死亡扱い。
ラクリマではもういない人物だと認識されていた。
幽霊? それとも他の何者でもない者なのか。
それさえもわからないが一つ言えることがある。この男は・・・・・・。
「父さん。もしかして父さんなの?」
声をあまり出せずにいる私が写真で見た父さんそのもの。
優しい顔立ち、スラッとした体型。黙っていればモテそうな男。
その父さんの顔がいきなり醜悪な悪魔のような笑みを浮かべている。
「そうだ父さんだ。迎えに来たぞ、我が娘よ。」
この口調と表情、これは本当に父さんなのか? 私にはそれがわからない。
考えていると九条院さんたちが私の前に立ち阻む。
なぜここに久城院さんが?
「何ぼっとしているの。この男普通じゃない。あなたが狙いならあなたは逃げなさい。」
「久城院さん・・・・・・私はどうすれば。」
「早く逃げるのよ。この場から早く!」
「━━━━親子の再会の邪魔をするな。この小娘が。」
腕を引いている九条院さんに対して殺意を向けた。
「危ないですお嬢様。」
急に久城院さんが横に押し出された。例の執事美山の行った行動だ。
押された久城院さんのもといた場所にレーザー光線のようなものが煌めいた。
その煌めきは美山の腰の右端貫く。
貫いた箇所はまるで下からなかったかのように消えていた。
「お嬢様大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫。でも深山が・・・・・・。」
「私は大丈夫です。ですがお嬢様もさっさと逃げてください。ここは私にお任せを。」
「俺と殺し合うつもりか? 残念だがお前では役不足だ。」
「それでも執事にはやらなくてはいけない時があるのですよ。」
こんな時なのに。それなのに体が動かない。
このままじゃ深山が殺されてしまう。
「いいだろう。お前から殺してやる。俺は目的のためなら手段は選ばん。」
「望むところです。あなたに思い一撃を与えてあげましょう。」
ふと深山の姿が消える。これはいつもの高速移動。
もしかしたら勝てるか? という甘い幻想はすぐさま打ち破られる。
「がはっ・・・・・・・。なぜ。」
「お前が傷を負っていなければ危なかったぞ。」
いつの間にか深山の右肺のあたりに腕が突き抜けているのだ。
何かの間違いだ。なぜこうも圧倒的なのか。
深山のスピードは他の追随を許さないはず・・・・・・。
「しかしお前の能力は高速移動ではないな? 相手の感覚を狂わせ速度を上げているように見せている。言うならば『認識破壊能力』。なかなかに応用が効きそうな能力だ。」
「私の能力が・・・見破られた・・・。初対面で・・・がはっ! 見破られるとは・・・。」
父さんに似ている男は深山を無作法に久城院さんの前に放り投げた。
放り投げられた深山は瀕死の重症。話すのさえきついはず。
深山の傷を見て久城院さんは絶望しきった顔をしている。
「み・・・や・・・ま・・・嘘。あっさりやられるはずがないわよね。」
「すい・・・ません・・・。お嬢様・・・お逃げ・・・下さい。」
「私が深山は置いていけるわけないじゃない。」
「ですが・・・・・・力が・・・圧倒的・・・すぎます。私が動ける間に・・・。」
「そういえば治癒の術使ってないの。傷が全く癒えていないじゃない。」
治癒の術。その名のとおり精霊術の基本の回復術。
種類として肉体を活性化させ自身の傷を治すタイプと直接癒しにかかるタイプ。
この二つでいえば後者のほうが使いこなせる自身はあれ体が動かない。
こんな時こそ動くう必要があるのに。
自分がこんなに無力だなんて・・・・・・皮肉すぎるでしょうが。
「ずっと・・・治癒を・・・くっ・・・行っているのですが・・・少しも回復しません。」
「どうして・・・いくら弱くても応急処置ぐらいはできるはずでしょう。」
「もしかしたら・・・呪いのような効果が・・・あるのかもしれません。」
「おや? 瀕死状態のくせに頭の回転が早いですね。傷が癒えないのは無の力をくらったからですよ。マクスウェルの無の力に対抗するにはそれなりの術が必要になる。」
マクスウェル・・・・・・。この父さん似の何かがマクスウェル。
もしこの男が父さんで大精霊だとするのならば私という存在は・・・・・・。
「マクスウェルとか大嘘こかないで欲しいわね。文献と全く姿が違う。」
「最初にこの世界に来た時は老人の姿だったからだな。私は姿を変えることができる。」
“こんなふうに”と姿を変えていく。初めは私の世界でも馴染み深い老人の姿。
次にドラゴン。そして最後は・・・・・・母さん?
写真で見た母さんの顔にそっくりだ。この顔をこの世界で知っているってことは。
「それよりもいいのか? そいつの命が尽きるぞ。」
「そんな・・・深山は死なないわよね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
もう美山の返事はない。完全に意識がない。早く治療しないと確実に死に至る。
出血多量で死ぬ前に傷を治すことができれば。
「私はこれ以上お前たちに自ら干渉しない。私の目的は・・・・・・我が娘ユエのみだからな。」
父さんがこちらにつかつかと近づいてくる。
来るな。来るんじゃない。来ないで!
「ふむ、拒絶反応を示している・・・か? だがそれは問題ではない。」
腕を掴まれる。力はそれほどでもない。それでも解くことができない。
「さぁ・・・・・・世界を繋ぐための礎となれ。」
『それはさせないよ。』
強い風が吹き荒れる。父さんは私の手を振りほどき後ろに飛ぶ。
この風は・・・まさか!
『やっほー、僕参上。待たせたね。』
「シルフ。戻ってきたのですね。」
『私もいますよ。水よ、我が主に仇なすものを撃て!』
今度は水の刃が父さんに向かってどこかから放たれる。
父さんはうまく避けて傷一つ負わなかった。
『惜しい! あと少しだったのに。』
『仕方ありませんね。この方は最強にして最凶の精霊。私たちを作ったあの大精霊マクスウェル様なのですから。』
『ウンディーネ、それは理由にならんぞ! 腕に紅蓮を悪には鉄槌を!』
「ちぃ。今度はイフリートか!」
イフリートが瞬間姿を弾丸のように父さんに攻撃する。
だけどその攻撃もまた当たらなかった。その攻撃で花壇の上に父さんが着地する。
『チャンス到来。我が意思で動きたる土よ、かの者を捕縛せよ。』
花壇の土がまるで生き物のように父さんを捉える。
父さんは完全に拘束され動けない。予想外の展開だったらしく眉毛をつり上げていた。
そんな父さんの前に4人の大精霊が私を囲むように姿を現す。
「お前たち・・・・・・なんのつもりだ?」
『マクスウェル様だってなんのつもり? 僕たちの主を生贄に使おうなんて。』
『我らの主はユエ・エリトーゼただ一人。』
「ほう。創造主である私に歯向かおうというのか・・・面白い。」
「皆・・・・・・来てくれたのですか?」
『当たり前ですね。私たちが主を守るのは当然のこと。』
『僕らは大事な主様を絶対に見捨てない。』
私の為に四大が集まってくれるのが嬉しかった。
何もできない私でも皆と触れ合うことができるのだと。
「そうですか・・・・・・それではシルフ。一つお願いがあります。」
『なんだい? できることならできるけど?』
「当たり前のことはいいのです。あの執事の彼を癒してください。」
『そんなの面倒くさ・・・・・・ってそんなわけにもいきそうにないね。』
シルフは執事の様態をすぐさま感じたのかそう呟く。
彼らが目を見張るほどに危険な状況のようでした。
「お願いします。」
シルフは深山の方へと向かい治療を開始する。
緑の光が深山を包み込む。
意外にも彼は治癒が得意ですからね。
「さて、そろそろいいか私の娘よ。」
「えっ?」
いつの間にか目の前に父さんが立っていた。
四大は・・・イフリートさんたちは一体どこにいるのですか。
「探しているところ悪いが封印させてもらった。」
父さんの手には三つの宝玉が乗っている。
三つの宝玉の色は彼らを象徴する色だった。
この短時間で父さんは四大の三人を封印せしめたということ。
嘘だと思いたい。しかし現にシルフ以外の四大の姿が見えない。
「━━━━私をどうする気ですか?」
「どうもしないさ。痛みもないないまま命突き出す以外な。」
驚愕した。この男は・・・父さんは私を何かの生贄にしようとしている。
それが何かはわからない。でも私の命を奪うものの他でもない。
「なんだぁその目は? 抵抗する気の目だが体が動いていないぞ!」
そう。自分の命がかかっている今でさえも動けない。
アレ? なぜ動けないのですか。
そういえば不自然だ。まるで石の塊のように動くことが・・・・・・。
「気づいたようだな。そうだ。お前は既に私の力の影響を受けている。」
「身体石化魔法・・・・・・禁忌とされている古の精霊魔法ですか。」
身体石化の魔法は文字通り相手の動きを完全に制御する術でかける人物によってキャバが違う。この術が他にかけられないのは私がそれなりに規格外だからですか。
「流石に知識は豊富だな。さすが精霊魔法を唱えることができた脳と言ってやろう。」
「精霊魔法を唱える? 精霊魔法は誰だって唱えられるでしょう。」
「違うな。その唱えるじゃない。精霊魔法を見つけ出し詳細に記述した論文を作ったことを言っているのだ。私もあれには驚いたよ。あの時あの場所であの論文を見つけていなければお前が間違いなくあの組織の一員になっていただろう。」
「あの組織がなんだか知りませんが・・・・・・もしかしてあなたが発表の邪魔を?」
「そうだ。この音の精霊ヴォイス、そして空の精霊フルーガの力を使いな。」
父さんが指をパチンと鳴らすと精霊が二人姿を現す。
姿化形から察するに大鳥に手足が生えたような奴がフルーガ。
肩にステレオ顔がスタンドマイクの執事服を着た精霊の方がヴォイスでしょう。
『どうもはじめまして。音の精霊ヴォイスといいます。』
『・・・・・・・・・フルーガ。』
予想通りというより姿通りだったので別に驚きはありません。
それとこのお二方はしゃべることができるということは上位精霊。
少なくともレイの精霊よりも高位精霊であることは間違いない。
確かにこの精霊二人ならば遠くから声を発生しつつ姿を見せないことが可能でしょう。
空の精霊が父さんを包み込み音の精霊が包まれた父さんの声を拾いあの場所に響かせた。
「一を知って十を知る。本当にそれを実践できるものは少ない。」
「それはどうも。褒めるよりも拘束を解いてくれませんか?」
「解いたら確実に一番の敵になる。目くらまし中しか効かない相手を解く必要があるか?」
身体石化魔法の解除方法は二つ。
一つは自ら相手より強い力をぶつけ無理やり解く方法。
二つ目は・・・・・・誰かが術者相手に傷をつけること。
この二つのうちどちらかが達成すれば私は自由になる。
声が出せるが大声は出せなかった。そううまくはいかないようです。
「大丈夫よ。この私が何とかする。」
ザッと九条院さんが私たちを見据えていた。その瞳には涙が出ていた跡がある。
シルフが治療を完了。できるだけ安全な場所に運んでいるのでしょう。
「ふっ。私の攻撃を予知そらできなかった人間が私に叶うはずなど━━━━。」
瞬間父さんの目が見開いた。あまりにも幻想的で凶悪なものを見たから。
私は目すら動けなかったことが僥倖と言っていい。
これを普通の状態で見たら逃げ出したくなる類のものです。
「なるほど。油断しなければこの程度の力を持ち合わせているということか。」
『マクスウェル様がお手を煩わせる必要はありません。ここは私がお相手しましょう。』
「いいだろう。あの小娘に私に抗うことがどれほど無力化教えてやれ。」
ヴォイスが姿を現実に映し出し父さんと私よりも二歩ほど前に出る。
音の上位精霊ヴォイス。音ということは間接的に攻撃するタイプです。
「ヴォイス・・・・・・任せたぞ。」
私は父さんに「お前はこっちだ。」と腕を取られ引きずられていった。
次回『九城院の能力』




