何度目かの急展開
12 何度目かの急展開
ラクリマからジ・アースに来て五日目の午前6時。
まるで最初からこの世界のことを知っていたかのように馴染んでいました。
人見知りの激しい(自称)性格の割には急速に仲間も出来ています。
今世紀最大の仲間作り率です。・・・・・・自分で言っておいて意味不明でした。
しかし物事には限度があります。
「今日から私はユエのルームシェア。よろしく頼むわ。」
唐突に九条院雪花が私の寮の部屋にここに住みますよと言ってきたのです。
咄嗟に頭を抱えてしまいました。この人はなぜこうも突発的なのか? と。
「SクラスとCクラスが同室とは歴史史上初めてですけど。」
「ならどうして私の部屋に来たのですか?」
「本当はね。あなたSクラスに入るものだと思っていたの・・・・・・でも違った。入ったのはCクラス。あれだけ強力な魔獣をあてがったのに残念。」
あの今日気に満ちたペンギンあてがったのはこの人でした。
本当にこの人やることなすことが常軌を逸しています。
「それでルームメイトになるには結構な権力を使ってしまったのよ。」
どんな強権を使ったのかは聞かないことにしましょう。
社会の裏部分を見ないようにするのも大人の精神ですから。
決まってしまったことはしかないのでルームメイトと認め部屋の片付けに入りました。
それにしてもこの部屋の広さは二人分だからだったのですね。
ふと大きな音が近づいてきました。えっ、何事?
「ちなみにね。寮は改造していいことになっているの。」
「それ初めて聞きましたけど!」
「今決めましたからそれは当然よ。」
扉をバンと大きく音を出しながら開け放たれる。その先には警備員の女性たちが!
軽部員の女性たちはタイルを持っているものや木材を持っているものまでいます。
先ほどの話ぶりからするとリフォームをするとのことです。
しかしいつから警備員の方々は引越し業者に成り果てたのでしょうか。
「お金・・・・・・いや、お嬢様の為にこの部屋の改築を開始する!」
「「「イエス・マム」」」
今完全にお金とか聞こえてしまいました。もちろん聞かなかったことにします。
これも大人の常識です。警備員の皆さんはなぜかプロ並みの動きで部屋をリフォームしていく。私たちがいるのにも関わらずものすごいスピードで。
「そろそろそこのリフォームもしたいので外で待っていてもらえますか?」
「いいわよ。ユエ、一度外に出るわよ。」
部屋から引っ張り出されてしまいました。
仮にもここは私の部屋なのに無断で工事していますし暴君ですよこの人。
5分間でリフォームが終わり部屋の内装は180度転換。
完全に初めて来た頃の面影はなくなりまるでどこかの王宮の一室のような佇まいになっていた。ちょっと身分が不釣合だ。何も言わずに警備員は颯爽と去ってしまう。
「私はやはり畳よりフローリング。この部屋もある程度快適になったわ。」
あなたは和室派でなかったのですか? 白い壁紙、豪華そうなフローリング。
左右に置かれたベッド。どちらも天涯がついている。部屋と合わせてちょっとしたお姫様気分を味わえそうです。九条院さんは右側のベッドに腰掛ける。
積もる話は中でしましょうということなのでしょう。
私は左側のベッドに腰掛けました。文句を言わないところを見るとこっちが私のベッドのようです。余談ですがフカフカですごく体が沈みました。
「でもやはりあなたから感じる力。人間のそれを超越している。」
「私はそんなに力があるように見えますか? それこそ買いかぶりですよ。」
「いえ、私には見えるわ。どう考えてもありえない量の力を感じている。」
ありえない量の力がなんなのかは知りませんがとにかく強い力を秘めている。
九条院さんはそのように言いたいのです。しかし私にはさほど力があるように感じない。
自分でもよくわからないものについて語り合うつもりはないのです。
早急に話題を変えようと考えた私は『ジャッジ』の話題を思い出しました。
「九条院さんは一年のSクラス代表になったそうですね。」
「一人を除いて遠隔操作系ばかりだったせい。それに多種多様の魔法をたくさん使える精霊術師はクラスで重宝されるのよ。」
この方は何使えてもおかしくないです。いわゆる魔王みたいな人ですから。
「それよりもあなたもジャッジに参加するのね。今から戦うのが楽しみでしょうがない。」
「エントリーは先生自らの推薦です。私はそれに従っただけですよ。」
「あのフロウ先生のお墨付き・・・・・・いいわ。ユエ、あなたはやはり最高。」
あの球体のお墨付きだと何か変わるのでしょうか?
それともあの球体を操っているあの地下にいるあの人のお墨付きという意味なのか。
どちらにしても彼女の琴線に触れてしまったようです。
「ああ、これで明後日が楽しみになったわ。ジャッジでは全力で戦いましょう。」
「はい、勝ち上がれたら・・・・・・ですけどね。」
「あなたは必ず勝つわ。それともし勝てなかったらお仕置きするから。」
「はいぃ? お仕置きってなんですか!」
体全体が震えるようなとても嫌な予感がするのですが!
心から聞いてはいけない。でも耳を塞ごうにも体が動きません。
抵抗できず悪魔の囁きが耳に聞こえてきました。
何を言われたのかも理解できませんでした。心から否定したい言葉だったのでしょう。
「とにかく楽しみにしているわ。」
私は是が非でも勝たなくてはいけなくなってしまいました。
罰ゲームだけは・・・・・・罰ゲームだけは回避しなければ!
などと考えていると部屋から出ていく九条院さん。
何も言わず出てしまったのでどんな用事かは知りませんが暇になりました。
「へい、どぉぉぉぉおぉおぉおおおぉん! 私・・・・・・参上。」
またしてもドアを蹴破るように現れたのは剣鬼百花。
今度修繕費を請求しときましょう。こちとらお金ないのに借金だらけになっているので。
「一体何のようです。」
「だんだん反応が薄くなってきた。ちょっと悲しい。」
「いいからさっさと要件を言いなさい。暇でもこっちは時間を有効に扱いたいのです。」
「扱いが酷い。アルバイトの話を持ってきたの・・・・・・。」
「ぜひ聞かせてください。」
「はやっ! どんなだけお金に飢えているの!」
自分でも現金な性格だとは思いますがこちらは死活問題なのです。
懐にお金が一戦もない以上は!
「私の伝手ですぐ働くことができるけどどうする?」
「今すぐ働かせてもらいます。」
「どこで働くかも聞いてないけどいいの?」
コクンと頷きます。このご時勢にわがままを言うはずがありません。
修羅の道? はっ、そんなものが金になりますか。
剣鬼に案内されアルバイト先へと赴く。かなりおしゃれな外見です。
プレートには・・・・・・『Un sourire solaire』・・・・・・意味は太陽の笑みでしょうか?
えへん。私だって勉強しているのですよ。無駄に胸張って強調しました。
「マスター。例のアルバイトの子連れてきたよ。」
「待っていたよ。さてどんな子・・・
「「・・・・・・・・・えっ?」」
マスターと呼ばれるここの店長。まさにその店長が見知っている人物である。
一つ、学会での知り合い。二つ、行方不明者のリストに入っている男。
ここまで揃っていればほらお互いがお互い知っていることがわかるでしょう。
「なんであなたがここにいるのですかリアン!」
「お前こそなぜジ・アースにいる。これは運命の赤い糸か!」
「なんですかその発想。ちょっと見ぬ間に気持ち悪さが加速していますね。」
「何おぉ! お前ふざけんじゃないぞ。あの人に気に入られているからって。」
「リエルさんのことですか?あの12年前学会での出来事を思い出したくありません。」
「きぃー。その余裕を今ここでぶち壊してやる。」
「いいでしょう。私も大変ムシャクシャしていますので手加減はできませんよ。」
売り言葉に買い言葉。まさに一触即発という空気になったところで冷静に戻る。
こんなところで喧嘩している場合じゃありませんでした。
「ストップ。ちょっとストップ。やっぱ喧嘩はやめます。」
「・・・・・・・・・なんだよ。お前らしくないな。話を聞かせてみろ。」
カクカクシカジカと簡潔に読者に伝わりにくい表現で彼に話しました。
「なるほど金欠で借金が増え続け困っていると。」
「そうですよ。そこで仇敵を助けるって感じでよろしくお願いします。」
手を擦り合わせ恥と外分を捨てた土下座をしてやりました。
「リアンは仇敵を助ける奴はいないと思うが。」と呟きながらも働くことを了承してくれました。やはり必要あるならば人間は恥も外分も捨てられます。
私は早速アルバイト行うために制服を着用しました。
黒い布地に白いヒラヒラのエプロン。まさにメイドさんと言わんばかりの・・・・・・。
はい、わかっていますよ。またメイドかいと思っているのでしょう。
知らなかったのですよ。アルバイト先がメイド喫茶とかいうお店だなんて。
「はい、まずお客様に言う言葉は?」
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
「妙に様になっているのだけどどこかでメイドでもしていたの?」
追求しないでください。あの城で使うかもしれないと練習していた黒歴史を。
「触れてはいけないものに触れてしまったのか? まぁいい開店は8時からだからその時までにやる気は回復させておきな。」
リアンにここまで恥を欠かされる日が来るとは思っていませんでした。
いつかきっと100倍返しで復讐してやります。
パンと顔を叩いてやる気を取り戻す。復讐心があるとはいえ(かなり問題)店長と雇用者という立場なのですから給与貰うためには真面目に働かなくてはならない。
真面目に取り組むために気合を入れ直したというわけです。
そろそろOPEN。開店時間です。笑顔で接客です。
開店まで・・・3・・・2・・・1・・・0!
「「おかえりなさいませ。ご主人様。」」
自分で言うのもなんですが営業スマイルひどすぎます。
リアンでさえもコイツ誰? みたいな反応をしているのが傷つきました。
営業開始から1時間経過。お客の数もなかなか増えてきました。
そのことはいいのですがどうしたことか。
「そこのおねぇさん。注文お願いできますか?」
「はい、ただいままいりますのでお待ちください。」
なぜだか私に注文を受けて欲しい人が倍増している。
営業スマイルもなかなか疲れるというのになぜ私ばかり。
他にもバイトの子がいるのに不公平です。
今目の前にいた中年男性の注文を即座にとって呼ばれた客へと向かう。
そこにいた人物はあの久城院の執事深山でした。
「いやはや。まさかあなたのようなお人がそのような笑顔作れるとは。」
「お客様。喧嘩売っているのでしょうか?」
「いえ、ただの感想でございます。今日はオフになってしまったので賑やかになっていたこの場所に来たのですけど。」
そこに私がアルバイトしていたことが目に入ったわけですね。
抜け目がないというか『カシャン』なんでカメラ構えて写真撮ったのでしょうかこの人。
「ちょっとお客さん。ウェイトレスの撮影は当店で禁止されています。」
「ウェイトレスの撮影お断りと言われたらこちらも引き下がりましょう。ですが。」
深山は懐から印刷された円という単位を使う札を束でリアンの懐に忍ばせた。
リアンは何やら急いだ様子でスタッフルームに閉じこもりました。
いったいいくら渡したのでしょうか? 見ただけで軽く10万円はありそうです。
しばらくしてリアンがこちらに戻ってくるのですがホクホクの笑顔でこう言いました。
「好きに撮影してもいいよ。」
どうやら金の誘惑に勝てなかったようです。しかしわからないことがあります。
深山はどうして私の写真をとっているのでしょうか?
呪いの人形の呪いにでも使うのでしょうか? 使用方法不明の撮影は怖いです。
「そのように不安がらなくても大丈夫ですよ。」
私の心が読めるかの如く笑っていますがなんでしょうと考えていると深山はニヤッと笑った。不気味な笑顔をしている深山はこう言ってきました。「お嬢様のコレクション用です。」
そのような理由ではそのカメラと内のメモリを破壊するしかありません。
私はカメラに向かって手を伸ばす。
「おっと。そう来ると思っていましたよ。このカメラを壊させません。」
が華麗に回避されてしまいました。ちっ、いつものように逃げられてしまうとは不覚。
正々堂々と店の出口から出るあたり紳士ですがもう絶望的です。
ウェイトレス姿なんてどのようにいじられるか・・・・・・。
「えーと・・・・・・とりあえず項垂れていないで働いてくれる?」
「リアンは以外にSですね。この私に言葉の追い打ちをするとは。」
「お前は今やここのもう一人看板娘になってしまっているから抜けてもらっては困る。」
いつの間に看板娘に! やたらと私に注文が多かったのはそのせいですか。
そもそもなぜ私目当てに人が集まってきているのですか!
疑問は解消されないまま時間は過ぎ去っていきアルバイトが終わる頃には疲れ切りました。あの執事・・・・・・いつか倒してやります。
「意外とお前接客うまかったんだな。見直したぜ。」
私は大事なものとかいろいろ失いました。
「アルバイトは合格だ。明日からこの店にバイトに来い。」
「休み以外合わないと思いますが?」
寮則にのっとったのなら言葉の意味そのものである。
「大丈夫だ。学園長にはある条件で呑んでもらう。」
「どういう条件なのかかなり気になるのですが・・・・・・。」
「ふっふっふ。帰る頃にはOKもらっておくぜ。」
夕方。結局宣言通り私のアルバイトは認められた。何を条件にしたのかは知りませんが(知りたくもありませんが)九条院さんがホクホク顔で部屋に戻ってきたのです。
(それと明後日はジャッジ。どんな試合になるにしても全力を尽くすだけです。)
「何よ、堅苦しい顔して。」
「明後日のジャッジのことを考えていたのですよ。」
「あらそのこと。私も楽しみだわ。あなたと戦えることにね。」
まるで戦闘狂のセリフです。いえ、彼女の性格からすると本物だと考えられます。
今日は夕御飯を食べてお風呂入ってさっさとねることにしました。
次回「収穫祭」




