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第四話 「城架町レブルヘイゲン」

 城架町レブルヘイゲンへの道中、俺はカナサにこの世界のことを教えてもらっていた。カナサは俺が異世界人だと信じてくれているようで、元居た世界の質問を時々挿みつつも丁寧に説明してくれた。曰く、ここはエイアイア大陸と言って俺達の目的地である城架町レブルヘイゲンはその内陸部にある豊かな魔力産出都市らしい。


「ふむふむ……『魔法』産出ねぇ」

「私も里の外に出るのは今回が初めてなので、これくらいしか分かりませんが……」

「魔法を使うのにはこの魔繭(まゆ)が必要だってことは、レブルヘイゲンは魔繭の産地なのか」


 俺はポケットに入れていた魔繭を取り出した。傾いた日の光を淡く反射している。この世界に迷い込み遭遇した凶暴な魔物――それを倒した時に手に入れたものだ。


「あれ? それはつまり魔物も沢山いるってことじゃないか?」

「そうなりますね。でもそれを狩るコクーンハンターもより大勢いますよ。仁さんお強いんですから、アテが無いのであればコクーンハンターになってみてはどうでしょう?」

「それはいい考えかも……」

「一流のコクーンハンターは人気があって人々から英雄のように慕われていますから、仁さんの目指すトクサツヒーローでしたっけ? に近いのかもしれません」


 元の世界では職業として成り立たなかった怪人退治のヒーロー職がこの世界では成り立っている。これこそ俺の求めていたモノなんじゃないだろうか。

 期待に胸を膨らませ小道を歩いていると、やがて石畳の敷き詰められた大きな街道にぶつかった。


「この道を行けばすぐレブルヘイゲンですよっ。ほら!」


 カナサが嬉しそうに街路の行く先を指差す。その地平線には小さくだがいくつもの建物が詰まって立ち並んでいた。確かに大きな町のようだ。今までの土の道に比べ街道は歩きやすく、そこから先の足取りはとても軽かった。

 しかし町に近づくと、目の前には息を呑む光景が広がっていた。大昔、ここで大爆発でもあったかのように大地が半球状に抉れている。どうやら谷はドーナツ状になっているようでレブルヘイゲンの町はその中心地、俺達が立っている外周と同じ高さに栄えていた。


 断崖に囲まれた陸の孤島の町――街道は石橋と繋がっていてそこからしか町への移動手段はなさそうだ。まさに自然の城壁と言ったところか。

町のシルエットには窓や街灯の暖かい光が群れていて人間の社会が形成されているのが分かる。


「あれ? 城下町なのに城がないような……」

「城架町ですから、たしかはるか昔の魔王城の上に架かる町なんですよ」


 魔王城という言葉を聞いた俺は谷を覗き込んだ。魔王城どころか谷の底すら見えない。


「とにかく、暗くなっちゃいましたし早く町に入りませんか? ……わっ!」

「どうしたっ?」


 焦ったカナサの声にすばやく振り向いた。また魔物か?


「すいませんっ、ちょっと顔にゴミが飛んできただけで……」

「あーっ! その紙、ちょっと見せてくれ!」

「え? あ、はい。どうぞ」


 俺はカナサからゴミを受け取り興奮した。それは荒野で失ったと思っていたセカイダー図鑑――の1ページだった。どうやら戦いの最中にバラバラになってしまったようだ。俺は辺りを調べながらカナサに聞く。


「他にもこれと同じような紙、飛んでこなかったか?」

「これだけでした。見たこともない文字ですけど、仁さんは読めるんですか?」

「これは俺が元いた世界の文字で――あーもう! 暗くて探しようがないな。さっさと町に行くか……」

「良いんですか? とても大切な物なんじゃ」

「失くした場所が遠いし、1ページ見つかっただけでも奇跡だよ」


 内心はとても落胆していた。セカイダー図鑑にはセカイダーの秘密――何故俺が変身することができるのか、別の世界からやってきたのか、そのヒントが隠されているような気がしたからだ。


 俺達は石橋を渡り町への入り口にたどり着いた。何人か町から出てくる人とすれ違った。指は5本、俺と同じヨト族というのは彼らのことだろう。そのまま大きな門をくぐりついにレブルヘイゲンの町へと足を踏み入れる。

 旅行番組で見たことのあるような町並みだ。木組みの柱と白壁でできた木造建築や、大小さまざまなレンガで組まれた重厚な家がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。その家屋の隙間を縫うように狭い道が張り廻り、さながら迷路のようだった。視界が開けるだろう町の外周は、高い石壁があったのは門の周りだけで絶壁を背に住居があったり谷を見渡すことができる公園が設けられていたりする。


「本当にでっかい町だなー」

「地図が無いと迷ってしまいそうですね」

「それで、カナサはこれからどうするんだ?」


 カナサは事前に用意していたのか荷物の中から1枚の紙を取り出した。そこには大雑把な地図が書かれていて、いくつかのポイントがマークしてあった。予想はしていたが文字は俺の全く知らない言語だ。


「まずはハンターの登録を済ませようかと思っています。魔繭を扱うために必要な資格でもありますので」

「今からでも間に合うのか?」

「夜の魔物を相手にする方も多いので、ハンター関連の施設は夜も開いているらしいですよ」


 細かい路地をいくつか通っていると俺の腰くらいの大きさの魔物が1人のハンターに追われている光景を見ることが出来た。


「おいおい、あの崖とか橋とか全然役に立ってないじゃん! 町中に魔物が入ってるぞ!」

「私達の会った魔物よりは小さいですけど……」


 そんな俺達の様子を見かねて、荷物を持った買い物帰りらしき初老の女性が声をかけてきた。


「あんた達、レブルヘイゲン来たの初めてかい?」

「あっ、はい。あれは大丈夫なんでしょうか?」


 人当たりの良いカナサの疑問に女性はカラカラと笑いながら丁寧に説明をしてくれた。


「この町はね、魔物が中に入れないようにしてるんじゃないのさ。アレはこの町で発生した魔物でそれを外に逃がさないようにしてるんだよ」

「町中で魔物が発生なんかしたら危険じゃないか! そもそも発生ってどういうことです?」

「あんたこの町のことはともかく魔物の事も知らないのかい。ちゃんと勉強しないとダメだよ」


 この世界に来て1日も経ってないので仕方ないのだが、20歳にもなってこんな怒られ方をされたのはなんだか新鮮だ。そんな会話をしているうちにハンターは魔物を狩ることに成功したようだ。魔物の身体が消え、残った魔繭をハンターが回収していた。


「わざとああやって弱い魔物を発生させることで、魔力が濃くなって強い魔物が出ないようにしているんだよ」

「なるほど! 生活する場所の近くで魔繭が取れれば供給が安定するってことですね!」

「飲み込みが速いじゃないか、お嬢ちゃんは」


 カナサが言うには魔繭は人が生活する上で欠かせない物だ。わざわざ危険な場所へ狩りに出向かなくてもご近所だったら人も大勢いるし、輸送をする必要も無いってことか。


「魔物は大気中の魔力を元に生まれて、人間の活力をエサに身体を維持するでしょ。私達人間は魔力を直接どうこうできないけれど、ちょっとした工夫で魔物の発生を調整してるのよ」

「どんな生き物だってエサのないところで生まれたりしないって事ですね」

「要するに――魔力が溜まってるところで人が生活をしてれば、最低限の魔力が溜まるたびに弱い魔物が生まれるってことか」

「お、兄ちゃんも分かってきたじゃないの。逆に普段まったく人が訪れない秘境だと、ずっと魔力が溜まり続けてて危険てこと。濃い魔力からはそれだけ強い魔物が生まれるからね」

「強い魔物ほど上質な魔繭が取れるんですよ!」


 カナサが得意分野とばかりに目を輝かせた。魔繭をどう使うのかは知らないが、この世界の基盤にもなっている魔力のことがだいぶ分かってきたぞ。この町の住民は自らを囮にして集まってきた魔物を狩り、効率よく魔繭を手に入れているらしい。荒地や森林に迷い込んだ時、俺達は溜まっていた魔力を刺激してしまってたようだ。元々おしゃべり好きなのか、女性は口を休ませることなくさらに説明を続けてくれた。


「有名な話だけど、昔この土地には魔王城があって魔力の濃い土地だったのさ。弱い魔物を毎日発生させて調節してなけりゃすぐ恐ろしい魔窟になるよ」

「では町中をコクーンハンターの方がパトロールしてるんですか?」

「やってる人も見かけるけどね。この町に住んでるヤツは、ある程度自分の身は自分で守れるよ」


 その後はレブルヘイゲンへ来た理由や町の世間話など、女性2人のおしゃべりが始まってしまった。


「なぁ、俺達ハンターの登録を済ませないといけないんじゃ……」

「あっ! 忘れてましたっ!」

「おっと、長話しちゃってごめんよ。登録所はここから大通りに出てすぐ向かいにあるから」

「ありがとうございましたっ!」


 女性に別れを告げて、俺達は大通りに出た。夜だというのに街灯が輝き大勢の人で賑わっている。暖かい気候のためかオープンテラスの飲食店が多く、食事をし酒を酌み交わしながら談笑にふけていた。


「えっと登録所は……」


 見渡してみるがそもそも俺はこの世界の文字が読めなかった。隣のカナサに助けを求める視線を送ると、白い石作りの建物を指差した。木製の分厚そうな扉の上に繭と剣のオブジェの付いた看板がある。読めなくても分かりやすい。


「あそこみたいです。行きましょう!」


 俺とカナサは大通りを横切って扉の前に立ち、一呼吸置いてからゆっくりとその扉を開いた。





次回の更新は再来週25日の日曜日8:00、サブタイトルは「ヒーローへの壁」を予定してます。書き溜まっていれば18日に更新するかもしれません。

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