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第十三話 「外の世界 前編」

 崩壊の危機が迫った世界……

 セカイドライバーが現れ、俺が転生したこの世界は、もうすぐ崩壊するかもしれないってことか?


「おい、顔色が悪いぞ?」


 狼狽する俺の様子をみてクローディアが問いかける。俺は慌てて平常心を装い、図鑑のページをクローディアに返して足早にその場を立ち去った。


「なんでもない。そ、それじゃ俺お使いがあるから!」

「あ、こらっ!」


 あの様子では彼女は俺が図鑑の文字を読めること、その内容を知る者だと気付いている。図鑑の内容や、俺の正体を洗いざらい話すべきか? この世界の危機だとすれば、よそ者の俺より知識が豊富だ。心当たりも有効な打開策も知っているかもしれない。俺はカナサに描いて貰った地図も確認せずに、人の少ない裏路地を走った。自分がどこに向かっているのかも分からない。俺はこれからどうすれば良いのだろう。

 道を抜け、視界が開けると、レブルヘイゲンの町の中央広場に出た。さまざまな人々、この世界の危機の当事者たちが何も知らずに日々を過ごしている。俺は立ち止った。


「いや、それなら。この世界の住人だけで解決出来る危機なら、セカイダーは必要ないじゃないか」


 わざわざ世界の外から、セカイドライバーと俺が呼ばれた意味。それをひしひしと理解する。ヒーローらしく、違う世界からやってきた俺が、影で世界の平和を守れと言う事だろうか。理不尽――いや。


「いいじゃないか! 特撮ヒーローの先輩達だって、自分の星じゃない地球を守ってきたんだ!」


 俺は根っからのヒーローオタクで、そして単純だった。ピンチの時こそ強くなり、どんな危機でも諦めないヒーローに子供の頃からずっと憧れてきた。そして今、その力と、舞台が揃っている。世界を双肩に任されるなんて

 たとえこの世界の住人じゃなくても、感謝されることもなく、人知れず死ぬことになろうとも、この世界を救ってみせる。


 とはいえ、何か具体策があるわけじゃない。まずは目の前の出来ることから、カナサのお使いを済ませよう。


「たしか、届け先はハンターギルドの近くだったかな。帰りにちょっとガブ爺さんに会ってくか」




 ハンターギルドの資料室。ギルド内に設けられた休憩所からカップを2つほど拝借してセルフサービスのお茶を入れた俺はそのドアを肘で押し開けた。埃と古紙の匂いが詰まった部屋には相変わらずガブ爺さんが居た。ところでこの爺さん、この部屋から出たところを見たことがないんだがどこで寝泊りしているのだろうか。俺の姿を確認すると、自分の近くの本が積み重ねてある椅子を一つ空けてくれた。


「さんきゅー」

「やれやれ、お前さんもずいぶん暇じゃの」


 あきれたような顔をしつつ、俺が持ってきたお茶をすすりだす。この世界の人間は、体内に蓄積された魔力の影響で老けにくく寿命が長い。異世界から来た俺には顔中皺だらけの顔は90歳くらいに見えるが、きっと1世紀半は余裕で生きているに違いない。長寿の知識と本の山、この場所はレブルヘイゲンの中で一番調べ物に適した場所だと思う。


「なー爺さん、この世界にとって一番の危機――大災害とかが起こるとしたら何だと思う?」

「なんじゃいきなり」

「いや、えーと、歴史の勉強ってやつ?」


 俺は適当に誤魔化す。この世界で暮らし始めて1月くらいになるが、魔物が出現するのが日常のレブイルヘイゲンの町は平和そのものだ。世界の危機なんていきなり言われても中々思いつかないだろう。


「そりゃ決まっとろう」

「え?」

「この世界の危機っつったら魔王の復活じゃねぇのか」


 当然のように答えるガブ爺さんに、俺は呆気に取られてしまった。そんな俺を見て爺さんは愉快そうに笑った。


「仁、ここがどこか忘れとらんか?」


 ここはレブルヘイゲン。城架町レブルヘイゲンはかつて魔王城のあった場所の上に架けられた町。魔王城ってことは魔王が住んでた場所ってことか……。


「ちょっと待ってくれ。魔王が死んで居なくなったから町を建てたんじゃないの?」

「んなわけあるかい。魔王が死んどったら、こんなに魔力が濃くなったりせんわ」


茶を交えながらのんびり語り始めたガブ爺さんの話をまとめると、神話時代、かつて神々や天使、魔族が星の覇権をめぐり争っていた。現在のレブルヘイゲンのある場所に城を建てて勢力を付けていたのが、後に魔王レブルイーズと呼ばれている魔族の王だったそうだ。そして、星の覇権を懸けた戦いで深く傷ついた魔王は城と共に地下に封印された。その後、地上を支配する生物が現れない空白の時代を経て、我々人類の歴史が始まったということらしい。

 つまり、魔王レブルイーズは未だこの町の直下で眠り続け、そのにじみ出る魔力で魔物達を引き寄せているらしい。世界にはレブルヘイゲンと同じような城架町がいくつか存在していて、どこも同じような経緯で作られたそうだ。


「3日後に繭泉祭(けんせんさい)あるじゃろ。アレは月の影響で魔王の封印が緩んで、魔力が一段と濃くなるんじゃ。発生する魔物の数も増え、強さも増す。それに対抗するために町中の人々が協力するのが祭りが生まれた由来なんじゃよ。」

「封印が、緩む――」


 あと3日。セカイダー図鑑に記された世界の危機とは、その時に魔王が復活することなのだろうか。いくらなんでも早すぎる。俺はセカイダーの力を全て知り尽くしていないし、扱いこなせてもいない。魔王レブルイーズがいわゆるラスボス――だとしたら、挑むにはまだまだ俺は力不足だ。普通こういうのは敵幹部を何人も倒したり、パワーアップを繰り返した後に戦うものじゃないだろうか。それともあれだろうか、最初に1度負けるパターンなのだろうか。敵の強大な力を前にヒーローは1度打ちのめされてしまうが、周りの人々や自分自身の力で再度戦いを挑む。作品を観ていた時は、思わず目を逸らしたくなるような圧倒的な実力差にハラハラして、恐怖を乗り越えて戦いに戻るヒーローに憧れたものだ。俺もあんな風になれるのだろうか。


「爺さん、繭泉祭って俺も参加出来るんだよな?」

「ああもちろん。新人だろうとレブルヘイゲンのハンターだけでなく全ての人間が協力し合うのがしきたりじゃからの。祭り中のすべての魔物は普段より1ランク上といって良い。しかし町中がバックアップに回るから安心じゃ。お前さんもしっかりハンターたちの援護をするんじゃよ」


 登録名『セカイダー』のコクーンハンターは、ハンター登録を済ませてから日が浅い新人ながらもファントムを退治した実力を持つ期待のルーキーである。しかし、名前を知っている者は多くても実際に戦っている姿を見た者、その鎧の下の姿を知る者は少ない。俺はセカイダーの知り合いという事にして、ハンターギルドからの依頼を代理で受けている。……正直、この世界ではセカイダーのように戦う力を持つ人は沢山居るので、正体を隠す必要はないのだがそこはこだわりである。

 とにかく祭りまで時間が無い。なんとか短時間で力を付ける方法はないものだろうか。


「ああ、非戦闘員は食事や休憩場所を用意したりするんだよな。祭りの案内がポストに入ってたよ」

「飲食店や宿屋の助っ人じゃな。武器屋や雑貨屋なんかは無料で武器の整備や高級薬品を配布したりしとる」

「ん、でもそれならみんなで集まってドンチャン騒ぎする必要ないんじゃないか? 戦いの近くは危ないじゃん」

「祭りという形式を取っているのにもちゃんと意味があるんじゃ」


 ガブ爺さんがコホンと軽く咳払いをする。長い説明の合図だ。


「繭泉祭はレブルヘイゲン中の魔力が濃くなり、町中に強い魔物が蔓延る期間中に行われる。魔物というのは人間の活力をエサにしているじゃろう。じゃから、人々は1箇所に集まり活気ある祭りを行う事で自らを囮として魔物を集める。ハンター達も町中に散り散りになるより1箇所で協力して戦ったほうが安全じゃし、戦わぬ者もその近くに居た方が安全じゃ」

「おお、確かに」

「さらにもう1つ重要なことがあるんじゃ。地上でそれだけの騒ぎが起っておると、魔物が地上に集中して地下ががら空きになるんじゃよ。そこで選りすぐりのエリートハンター達が調査隊を組んで、普段の探索で集めた情報を元に新しい道やアーティファクトの発掘をするんじゃ」

「エリートか……俺、あーいや、セカイダーも行くことは出来るのかな」


 魔王復活が迫っているとすれば、一番近くで対処できるのはその調査隊だろう。今の力で通用するか分からないが、何もせずにいるよりはマシだ。


「経験も浅いし今のランクじゃ恐らく無理じゃろうな」

「ぐぬ……やっぱりか」

「恐らく祭りの前日にはレブルヘイゲンのハンター達に、祭り中の狩場と日付の書かれたシフトが配られるじゃろう。調査団以外は町の中央広場近くで集まってきた魔物狩りじゃよ」

「そのシフト以外は自由行動なのか?」

「基本的には自由じゃが、自宅に帰るときは地区ごとに帰宅時間が決まっていてハンターが護衛することになっとる。それと、調査団以外は地下遺跡への立ち入りは禁止じゃ」


 俺の考えを読んだのか、ガブ爺さんは最後の1文を強調した。こっそり忍び込むのは止めておこう。これ以上は考えても仕方ないと思い、俺はガブ爺さんに別れを告げて薄暗い資料室を後にした。

 悩むのはらしくない、不安があるならもっと力をつければいいじゃないか。よし、筋トレをしよう。


「あーちょっと待って!」


 早足でギルドの出口に向かう俺を、カウンターに座る人物が呼び止めた。やる気の出鼻をくじかれた俺は肩を落としながら振り返る。


「……なんすか?」

「キミ、前にキプナ族の子と一緒に来てたよね。知り合い?」

「ん、まぁ」

「これ渡しといてくれないか」


 そう言ってカウンターの男性はその場から動かずに何かを投げた。


「うおっと!」


 くるくるとフリスビーのように回りながら跳んできたそれを両手を伸ばしてキャッチした。見るとそれは封筒で、ハンターギルドの印が押されていた。


「勝手に開けたりせず、ちゃんと本人に渡してくれよ」

「わかったよ」


 少しずつ勉強してはいるがこの世界の文字を俺は読めないしな。で、なにをするつもりだったっけ。ギルドの扉を出て筋トレをするつもりだったことを思い出し、俺は全力疾走でカナサの待つ自宅へ帰った。


 自宅に帰ってカナサにおつかいの報告をして、ギルドから預かった封筒を渡すとカナサは困ったような表情を浮かべた。


「なんて書いてあったの?」

「えーと、前に仁さんと一緒にギルド行きましたよね。あの時の依頼を受けてくれる方が見つからなかったので、期限切れで取り下げになってしまったみたいです」

「遠い場所だったやつか」

「はい。繭泉祭前に仕上げたい物があったのですけど……今から依頼し直しても間に合いませんね」


 カナサが依頼というのは、レブルヘイゲンでは手に入らない素材を他の町のハンターギルドに依頼していたものだ。俺が受けようと思ったのだが、ここから移動にひと月もかかる場所らしい。その町で受注者が期限までに現れなかったのか。俺はカナサの話を聞いて、ふと良い考えが浮かんだ。


「カナサちゃん、その素材ってやっぱり魔物を倒すんだよね? 強い?」

「素材があまり市場に出回らないと聞くので強いと思います」

「よっしゃ、地図持って来て!」

「ええ? あ、この町に来る時に使ったので荷物の中にあると思います」


 そう言うとカナサは奥の部屋へ向かい、手に地図を持ってすぐ戻ってきた。俺はそれを受け取ると机の上に広げた。大陸全体を写した大雑把な地図だ。


「レブルヘイゲンはここで……カナサちゃんの依頼の場所はどの辺?」

「ここです。リビナと言う港町の近くなんです」


 地図に書かれている大陸の名前はエイアイア大陸。そして大陸の中央を横一直線に分断するゴウサ火山脈の南がリセロ公国。俺が今生活している町はそのリセロ公国内の魔法算出地、城架町レブルヘイゲンだ。大陸のほぼ中央に位置しているレブルヘイゲンと、東部のグラス海に面した港町リビナは確かに距離がありそうだ。しかし、地図の縮尺を見る限り、ひと月もかかる距離には思えなかった。


「大陸のこの場所に大きな亀裂が入っていて、迂回しないと進めないんです。それに迂回するルートも荒れ放題の山道らしくて……」

「ふーむ……なるほど」


 俺は手持ちのピースをかけ合わせるように考えた。繭泉祭の前に少しでも経験値を積んで強くなりたい。それに、レブルヘイゲンの町も全部回ったことがないけど、外の世界がどうなっているのかも知りたい。


「よし、カナサちゃん。今から行こうぜ!」

「へ? どこにですか?」

「クラーケンをぶっ倒しにさ。せっかく移動手段も手に入れたんだし、旅行ついでに行こうぜ!」


 今の俺にはオーロライダーがある。実はバイクで大陸横断とか憧れていたのだ。移動だけなら魔物と戦うこともないだろうから、カナサと一緒に港町を堪能しよう。


「む、無理ですよ! それじゃ繭泉祭に参加できなくなっちゃいます」

「大丈夫大丈夫。秘密兵器があるんだよ、楽しみにしてな!」


 オーロライダーのスピードなら日帰りだって出来るだろう。きょとんとするカナサに向かって、俺は自信満々の笑顔で答えるのだった。




次回の更新は12月15日8:00、サブタイトルは「外の世界 中編」を予定しています。

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