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第十一話 「荒野を駆けろ! 後編」

 へッドライトに照らされた眼下の荒れた地面が、目まぐるしい速さで後方に流れていく。アスファルトで舗装されていない未踏の大地を、オーロライダーは苦もなく駆けていた。障害物がほとんど無く、これだけの距離をカーブもブレーキも無しで走り抜けるのは正直言って気持ちが良い。日本じゃ北海道くらいでしか味わえないんじゃないだろうか。


「っと、感動してる場合じゃない。ファントムを見つけないと」


 恐らくオーロライダーに乗った今の状態ならスピードは互角。

 同速度で走っている相手ならスピードに惑わされることも無いはずだ。巨大な円を描くように荒地を周回していると、ついに俺の眼は疾走する黒馬の後姿を捕らえた。側面や真正面から来られたらどう対処しようか悩んでいたが運が良い。逐一相手の動きを把握できるため、後ろから追いかけるのは簡単だ。いったいどれくらいの速度が出ているのかと前面パネルのスピードメーターを確認してみたが、あれこれ良く分からない数字や記号が動いているだけだった。こんな荒地に法定速度があるわけでもないから不必要だったのだろうか。


「捉えたぜ、ファントム!」


 俺はさらにアクセルを回し加速する。ファントムの姿がじりじりと近づき、並んだ。

 そういえば現物をこれだけ間近で確認するのは初めてだ。足音が無く、滑るように走る姿はまさに幻影(ファントム)

 一番強く感じたことは、今までの魔物とは明らかに違うという点。これまで俺が戦ってきた魔物は、意思を持たず、近くの人間をただ襲うだけだった。無機質な機械を相手にしている感覚だ。しかしこのファントムは、魔物に対して使うのはおかしな話かもしれないが、活き活きしている。荒々しく息を切らし爆走する姿には誇りのようなものを感じることが出来るのだった。


「魔物にこんなことを感じるなんて、妙な気分だ!」


 ファントムはオーロライダーで走る俺と並走しながら身体をぶつけ、攻撃を仕掛けてきた。車体を傾け衝撃を堪え、逆にこちらから押し返す。弾かれたように5mほど距離を取ったのでレイバレッドで追撃を試みようとするが、腰に伸ばした左手は空を掴むばかりだった。

 いつの間にかワールドフォームに戻っている。


「くそっ、バイクはワールドフォーム専用なのか」


 遠距離攻撃の手段が無い以上、近距離でのぶつかり合いをするしかない。しかし、俺は免許は持っててもバイクアクションの練習なんてまだ一度もやったことがなかった。敵戦闘員Aはバイクに乗って派手なアクションはしないのだ。

 セカイダーの主な戦闘スタイルは格闘。バイクに乗りながら力を込めたパンチやキックを繰り出すには相当な練習が要るだろう。


「でもやるしかない。ぶっつけ本番上等だっ!」


 距離を取っているファントム目掛け、オーロライダーを傾け突っ込む。肩の装甲を活かし、タックルを当てる要領だ。


「グッ……!」


 推定時速200km以上で走っている同士がぶつかる衝撃は計り知れないものだった。装甲が削れてダメージを受けた。しかし生身の相手の方が被害は大きいだろう。


「でも、こんな攻撃何回もできないぞ。おい、オーロライダー! なんか方法は無いのか?」


 突如、オーロライダーのパネルに変化が現れた。俺がぽろっと呟いた言葉に対して反応したのだ。


「な、なんだこれ。もしかして、言葉が通じるのか?」


 ライトが点滅した。

 そういえばコイツは俺が呼ぶことで現れた。あの時、俺はバイクにも意思があるのかと思っていたがこんな受け答えが出来たとは。


「パネルの……これはボタンか。これを押せば良いのか」


 また点滅。

 現れたタッチパネル上のボタンをグローブの指で押すと、シートの後ろの機械が側面の装甲に変形した。鋭く尖った刃が外側に付いて、乗り手を守ってくれるようだ。


「っしゃ! これなら行けるぞ。」


 突撃用の武器を装備したオーロラーダーを操り、ファントムに攻撃を仕掛ける。すると、さすがに今回は当たればまずいと感じたのか速度を上げ、衝突を避けた。俺も負けじとスピードをあげ追いかける。

 エンジンが一層高く唸り声を上げ、ホイールを回す。既にオーロライダーとファントムの速さは翼が付いていたら飛んでしまうほどになっていた。姿勢を低くし、さらに追い上げを計る。


 すると突然ファントムは足を止め、蹄で激しく地面を削りながら急停止した。


「うあっとあぶねッ!!」


 ファントムを反射的に避け、俺も急ブレーキをかけてオーロライダーを止めた。どういうつもりだろうか。疲れたのか、もう逃げられないと諦めたのだろうか。

 しかしそんな甘い考えはファントムを見て吹き飛んだ。激しく息を切らしているが未だ闘争心は消えておらず、ガリガリと前足の蹄を鳴らしていた。


「なるほど、ここで決着を付けようってことか。……魔物にもオマエみたいなヤツもいるんだな。気に入ったぜ!」


 戦闘中にも関わらず俺は嬉しくなり、つい口元がにやけた。

 この世界にやってきて本物の変身ヒーローになることが出来た。だが戦う相手は知性を持たない獣のような魔物ばかりで、特撮ヒーローのように世界征服をたくらむ悪の組織や主人公に執着するライバルヒーローが居ないことを少しばかり寂しく感じていたのだ。

 ファントムは組織だった悪さをするわけではないが、戦うためのプライドのようなものを持っている。こうやって西部劇のように睨み合っているのも、己が一番自信を持っている突進力で勝負するためだろう。ならば俺は応えるしかない。出会って間もないが、俺もオーロライダーの力を信じているからこそ!


 ハンドルを回しファントムの正面方向にオーロライダーの機体を切り返す。依然ファントムはその場から動かない。俺はいつでも発進できるように、エンジンを鳴らす。


 夜の荒野。

 聞こえるのは、涼しい風の音とエンジン音と蹄が地面を削る音のみ。


「!」


 静寂を切り裂いてファントムの蹄が大地を蹴った。俺もすかさず反応して、アクセル全開で飛び出す。スタートはわずかに相手が早かったが、恐らく加速力はオーロライダーの方が上だ。あっという間にトップスピードに乗り、前方のファントムを見定める。高速で走るもの同士が向かい合っているなら、距離が詰まる速さは2倍だ。

 俺は直感を信じたタイミングでハンドルを引き、前輪を持ち上げ跳んだ。日本で子供を助けた時と同じように周りの景色がスローモーションのように映る。

 そして、目の前には既にファントムが迫っていた。


 衝突。


 バランスを崩しながらも着地した俺は急ブレーキをかけてオーロライダーを止め、振り返った。遥か後方にはこちらを振り向く様子も無いファントムがスピードを落として歩いている。

 そして――倒れた。


 今までの魔物と違い亡骸が空中に消えることは無かったが、見えない何かがその身体から抜けるように宙に溶けたのを感じた。オーロライダーを降りてファントムに近寄ると、石のような鉱石になった馬の死体が横たわっていた。俺が恐る恐る近寄るとその腹部が崩れ落ちた。死体はパラパラと砕けて砂になるほど脆い石で出来ていて、中は空洞になっていた。空洞にはぽつんと魔繭だけが取り残されている。さっき抜けていったのは中に詰まった魔力だったのだろうか。


「かなり手ごわかったな。それじゃ、魔繭は貰ってくぜ」


 俺は魔繭を拾い上げ、オーロライダーに戻り跨った。空を見上げてみると地平線が明るくなり始めていた。夜明けが近いのかもしれない。


「明るくなってきたしちょっと寄り道してくかな」


 とりあえず地図を広げる。ファントムとの戦闘であちこち駆け回ったため、自分が今どこに居るのかさっぱり分からないのだ。遠くに見える山の形や日の出の方向を参考にしようとするが地図が大雑把すぎる。しかもここは異世界、必ず東から日が出ているとは考えにくい。


「……こんなことならカナサにもっとこの世界のこと聞いておくんだった」


 レブルヘイゲンに帰ったら教えてもらおう。

 ワールドフラッグをベルトから引き抜き、電子音と共に変身が解除される。なんとなく、地肌で風を感じたかったのだ。戦闘で高潮していた肌を冷やす風が心地よい。


「よし! 新車の乗り心地をチェックするのもかねて適当に走らせるか!」


 俺はハンドルを握り、オーロライダーを気の向くままに走らせた。ノーヘルなんて気にしない。

 ここは異世界だ。日本での体裁も、しがらみも、次の日のバイトの時間も気にする必要が無い。


 自由だ。




次回の更新は11月24日8:00、サブタイトルは「予兆」を予定しています。

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