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第十一話 「荒野を駆けろ! 中編」

 荒野に出没する魔物【ファントム】の退治依頼をギルドから引き受けたその晩、昼から仮眠を取っていた俺は町の外へと繋がる石の架け橋に立っていた。前にこの橋を越えてレブルヘイゲンに初めてやってきた日がずいぶん昔のように感じる。


「ここでの新生活は新鮮なことばかりで毎日充実してるからなぁ」


 俺は橋の上から見える星空と町の明かりをしばし眺めていた。最近は暗く狭い地下遺跡での戦いが多かったので良い気分転換だ。よし、そろそろ行こうかな。

 橋を渡りきると大きな石畳で整備された街道が暗闇の地平線へと繋がっていた。ギルドで渡された資料を確認すると、ファントムの出現情報が確認されているのは街道をしばらく進みレブルヘイゲンも見えなくなる荒野の中心部らしい。徒歩以外の移動手段を持ち合わせていないので、もちろん現地まで徒歩である。


「まぁ、さすがにこれはやっとかないとな」


 ベルトに黒いワールドフラッグを挿し、回す。


「ワールドチェンジッ!」


 身体から光が発せられ、周囲の地面を照らす。電子音も鳴り響いたが町からずいぶん離れているだろうから近所迷惑にはなるまい。

 単純な移動もセカイダーに変身することで体力の消耗を減らすことが出来る。セカイダーは変身時間の決まっているヒーローじゃなくて良かった。魔物狩りが目的なら、多少の変身乱用は俺のヒーロー美学に反しないのだ!

 変身も無事完了したので、疲れない程度の駆け足で目的地を目指した。


 良い感じに身体が温まってきたころ、地平線からレブルヘイゲンの光が消え、地上より空の方が明るくなってきた。


「地図によるとこの辺らしいが……」


 ファントムは真っ黒な馬のような外見をしているらしいので、暗闇に紛れて奇襲を受けてはたまらない。俺は暗視機能を最大にして周囲を警戒しつつ、地図に書かれた範囲をうろうろし始めた。

 ふと、近くの低い岩陰の奥が動いた。


「そこかっ!」


 先手必勝。

 俺はベルトからライトフラッグを取り、既に刺さっているワールドグラッグと入れ替えた。スピード自慢の相手と戦うにはコレが最適だろう。空は雲ひとつ無く星が明るかったが、この程度の光では問題なく、無事ライトニングフォームに変身することができた。西部劇のガンマンのように腰からレイバレッドをすばやく引き抜き、岩陰に向かって音の衝撃波を出す第2の弾丸を放つ。

 近距離だったこともあり、硬い岩石はバラバラと砕け散った。以前、衝撃波を受けた魔物は短い時間だが身体を上手く動かせなくなっていた。魔物が岩陰に潜んでいたとすれば今の衝撃波が当たったはず。俺は魔物の姿を確認する前にレイバレッドのつまみを操作して、瞬間移動の弾丸を岩陰の少し奥に向かって撃った。魔物が衝撃波に気を取られているとすれば背後を取れるという戦略だ。


「はあっ!」


 視界が変わったと同時に、銃剣を振る。

 しかしそこに魔物の姿は無かった。岩陰が動いたのが勘違いで最初からそこに魔物は居なかった、それなら問題なかった。この状況が良かったのか悪かったのか、判断が付きにくいが俺の勘通り岩陰にはファントムが居た。じゃあなぜ攻撃が空振りしたのか。


「おいおい、瞬間移動したライトニングフォーム並に速いのか……」


 俺が先制攻撃として衝撃波を撃った位置にファントムが居たのだ。撃った後すぐにあの場所を離れていなかったらファントムの突進を食らっていただろう。次の手を考えていると、ファントムは俺から少し離れるように駆け出した。


「ま、待て! 逃げるなっ!」


 瞬間移動の弾丸を使いファントムとの距離を詰める。が、ファントムの位置に俺が移動する瞬間には、20mほど距離を取られていた。俺は焦り、今度はファントムの移動ルートの少し先に標準を定める。だが、レイバレッドから放たれた光の弾丸は地面に当たる前に消えてしまった。


「くそっ射程が足りないのか。なんて速さだ……しかもスピードに乗ってきたのかまだまだ速くなる!」


 これ以上距離を離されては堪らないと短い間隔でレイバレッドを撃ち追いかけるが、どんどんファントムの姿は小さくなっていく。レイバレッドの瞬間移動機能は、狙いを定め、トリガーを引き、着弾し、瞬間移動をする。瞬間移動と聞けばすばやく動けるように感じるが、これは狭い空間を縦横無尽に動き相手をかく乱するための機能で、長い距離を移動するには不利だ。おまけに視界がいちいち切り替わるせいでファントムを見失いそうになり、次の狙いを定めるのに時間がかかる。射程が長ければ相手の動きを先読みして弾丸を撃つことも出来るのだが……。


「……逃げられた」


 相手は線の動きで徐々に加速していく。こちらは点の動きで、移動するたびに止まっていてスピードは変わらない。ファントムの初速にはついて行けても、狙いをつけるレスポンスのせいで追いつけない。


「それにしても、逃げる魔物ってのもいるんだな。今まで会ってきたヤツらは問答無用で人間を攻撃してきたってのに」


 魔物は人間の活力をエサにしている。ファントムだって例外ではないはずだ。


「――とすると。やばいっ!!」


 俺が反射的に横に飛び込み回避行動をすると、すぐ横を何かが通った。避けそこなった足がその何かにぶつかり激痛が走る。俺は痛みに耐えつつ受身を取り、周囲を確認する。

 ファントムだ。姿を確認することは出来なかったが、砂埃が一筋、彼方まで伸びている。逃げたわけではなく、その突進力を最大限に発揮する戦法、つまりヒットアンドアウェイを行うつもりだったようだ。


「まずいまずい、立ち止ってたら格好の獲物だ!」


 セカイダーの複眼で全方向を見ることが出来るとはいえ、ほぼ見えない突進を防ぐようなものである。がむしゃらにでも動いたほうが良いだろう。足が少し痛むが、セカイダーライトニングの瞬間移動は立ち止っていても出来る。



 その後はファントムの突進を避け続ける防戦一方となった。直撃を受けることは無かったが、時々近くを新幹線が通ったかのような衝撃を感じる。何度も瞬間移動を繰り返すため、自分の現在地が分からない。

 なんとか打開策を考えなくては……。ワールドフォームに戻して相手の攻撃を受け止めるか。いや、走り始めたばかりならともかく、恐らく最高速のファントムの突進を食らえばセカイダーの装甲でもアウトだ。せめて自分も相手と同じくらいの高速で動き続けることが出来れば……こんなことなら最初から瞬間移動を使わずにセカイダーライトニングの脚力で走ればよかった。セカイダー図鑑によればライトニングフォームは100m走を2.8秒で走れる。ファントムほどじゃないので追いつくことは出来なくとも、姿を捉えることくらいは出来たかもしれない。


「でもこの足じゃそれも無理かもしれないな…」


 左足にフォントムの突進が少し当たっただけだったのだが、時間が経ってくるとかなり痛む。ただ、装甲が少し壊れスーツも傷付いているが地肌が見えているわけではないので、打撲のようなものだろう。


「こういう時、特撮ヒーローはどんな戦いをしていたっけ」


 レイバレッドで回避行動を取りつつ、まだ日本に居た頃を思い出す。俺の想像するヒーローのイメージを。

 パンチやキック、時には武器を使い敵を圧倒する。そんなヒーローになるため、セカイダー(おれ)に足りない物。


「そうだ! 乗り物だ!」


 ヒーローは人々のピンチにバイクや車などの乗り物で瞬時に駆けつけ、時には逃げる敵を追撃する。ヒーローにとって乗り物は相棒だ。セカイダーだって例外ではないはず。おそらく呼び出し方があるに違いない。しかしセカイダー図鑑がバラバラになってしまっている現状、それを今知る術は無かった。

 再びファントムの突進が近づいてくる。俺はまたレイバレッドを構えるが、違和感に気付く。なぜ突進が来ると分かったのか?

 ファントムの攻撃はセカイダーでも感知できないほどの高速で、音も無く一瞬で近づいてくる。だが今回近づいてくる物体には音がある、この世界に来てからは聞くことのなかった、雷鳴のようなエンジン音が。


「よっしゃあ! さすがヒーローのバイクだ!」


 ヒーローの危機には呼ばれていなくともやってくるのが相棒だ。バイクは俺の目の前で停車し、早く乗れとせかす様にライトを1回点滅させた。


「こいつにも意志があるのか。――だったら名前を付けないとな」


 バイクにまたがり、パネルやハンドルをチェックする。この世界では不要だが、いつかヒーロー役になりバイクアクションもこなす為に免許は取ってある。

 そろそろファントムが助走をつけて突進してくる頃だろう。俺は頭に浮かんだ名前を叫びアクセルを回した。



「セカイダーの初バイクアクションだ! 気張っていくぜオーロライダー!!」



次回の更新は11月17日8:00、サブタイトルは「荒野を駆けろ! 後編」を予定しています。

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