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第十話 「暗闇の光 前編」


 どこまでも続く闇。一歩踏み出す度に、奥底に眠る悪魔達を呼び起こしてしまうのではないかと思うほど足音が響く。

 ここはレブルヘイゲンの町の地下遺跡。俺はコクーンハンターギルドからこの遺跡内の調査依頼を受けている真っ最中だった。地下にはセカイダーと相性の良い魔物の方が多いし暗視機能もあるため、道中思っているほど苦もなく進んでいける。ギルドで貰った遺跡の地図に、対無体用に町で購入したブレードなど、今回は準備も怠っていない。

 地下遺跡は古くからハンターの修行場とされているため、上層部の調査はほとんど済んでいる。実際、渡された地図は調査の必要もないほどに細部まで書き込まれていた。俺が依頼された遺跡の調査というのはこの上層部からさらに下へ、まだ少数のハンターや研究者しか足を踏み入れていない中層部の入り口付近である。過去のハンター達が切り開いた近道を通っても入り口まで体感で1時間ほどかかる道のりで、少ないが魔物との戦闘もあった。


「やっと到着か――おおっ!」


 上層部、中層部といった識別は人間が後からつけた物だと思っていたが、そうではなかった。今まで俺が歩いてきた上層部は、大きな石のレンガで作られたまさに遺跡、という景色。対して目の前の中層部は天然の洞窟、壁や天井は荒削りの岩盤にどういう原理か分からないが水晶や宝石の原石が薄ぼんやりと光を発している。


「すげー。上層部より広くて明るいし、ここまでの安全な道があれば良い感じだな」


 俺は目の前の幻想的な景色に夢中になっていた。きょろきょろと、テーマパークを楽しむように地図に描かれた目的の場所を目指す。中層部の地図は入り口付近は上層部と同じように細部まで書き込まれていたが、奥へ進むほど情報量が減って、最後は分かれ道の有無が分かる程度の簡素な出来だった。そんな一箇所の調査を頼まれたという事は、自分の仕事の成果次第でこの地図が広がっていくという事だ。こういう仕事は大歓迎だ、開拓者の気分でワクワクする。

 現在地はまだ地図がハッキリと描かれている場所で、俺はさらに奥へ進んだ。地図上で道の幅くらいの情報しか分からなくなった位置で、俺は息を飲んだ。


「うわっ……」


 ハンターの死体、だ。

 それも1人ではなかった。ざっと見た感じでは10人弱。正確な人数が分からなかったのは、身体の破損が酷く、中には全身の装備品だけが転がっているものもあった。この世界、町に暮らし始めてまだ日は浅いが、このハンターたちの風貌がどことなく今のハンターたちとは違う気がする。想像以上に昔の人で、魔力の影響で腐敗が遅いのかもしれない。


「たしか、地下遺跡の安全管理をするようになったのは20年前くらいからだってギルドの人が言ってたな」


 ギルドはある程度ハンターの実力や依頼の難易度をチェックしている。近年ギルド内では、俺が受けている調査依頼で死者が出たことはないらしい。このハンターたちはおそらく中層部の開発初期のころの人物だろう。俺は慎重に死体を越え奥の安全を確認した。近くに魔物はいないようなので、依頼された仕事を片付けることにした。

 幼い頃から特撮ヒーローの絵を描いていたので、実は絵心にはちょっと自信がある。地図と一緒にスケッチブックも渡されて居たので、目に付くものをサラサラと描き、地図に場所を記入していった。死体の調査は必要が無いと思ったが、装飾品の特徴だけをスケッチしておいた。


「ふぅ、こんなもんかな」


 スケッチに夢中になっていた俺が一息ついて顔を上げると、魔物が居た。

 人型、前足と頭が長く、恐竜のようだ。


「……ッ! 音も無しに出てくるなよっ!」


 俺はスケッチブックを慌ててバックパックにしまい、臨戦態勢を取る。

 不利な状況だ。問題は2つ。

 1つは、魔物が俺の来た道、帰り道を塞ぐように立っていることだ。もう1つは、無体の魔物は音を立てずに出現することだ。つまりコイツはセカイダー(おれ)と相性が悪い!

 遺跡に入って初の無体の魔物だ。有体が出やすいとはいってもやはり全部がそうというわけではないようだ。俺は颯爽と背中のブレードを引き抜く。糸鋸のような形状でそこに魔繭からとった絹を張り、魔力を流して倒す物らしい。ボビンのようなカートリッジを柄の部分にセットすると、カチッと小気味良い音を立て(いと)が張られた。

 鉄の剣に比べてかなり頼りないんだが……


「このために買ったんだ、ちゃんと効いてくれよ」


 背後に行くほど道が狭くなっている、向こうが攻めてくる前に戦いやすい場所へ押しこまなければならない。スーツアクターの仕事で剣劇のようなものはやったことがある。ブレードは突きが出来ないので、突進しながら上から下へ斬ることにした。


「おりゃあああああッ!!」

「グオオオォォォ!」


 鋭い音が聞こえた。魔物は両手を頭の前でクロスし、防御の体制を取っていたようだ。

 カランカラン。

 何かが地面に落ちる音がした。ブレードだった。


「えええええええ! 折れてる!?」


 なんだこれ、全然役に立たねぇ!

 魔物からの反撃を後退しながら避けつつ思考をめぐらせる。何か使い方間違ったのか。一番安かったからなぁ……ケチったのがまずかったのかもしれない。町に出てくるような低レベルの無体は倒せても、地下の強力な魔物には力不足なのか。仕方ないのでパンチやキックでの攻撃を仕掛けるが、今までの無体の魔物と同じようにあまりダメージが通らない。徐々に後退を余儀なくされ、狭い通路へ追い詰められていく。


「必殺技の力押しで突破したかったが――狭くて助走もジャンプもできねえな、こりゃ」


 そう言いつつ渾身のパンチを魔物のボディに叩き込んでいるのだが、車のタイヤのような硬いゴムを殴っているような鈍い感触がする。威力が殺されているのか立ち止まることはあっても後ろに吹き飛ぶことはなかった。


「くっそ、やっぱ効かないか……」


 ジリジリと遺跡の奥へと押し込まれていく。魔物に意識を向けつつ足を後ろに運ぶと嫌な予感がした。

 道が、無い。

 複眼を使い魔物を警戒しつつ確認をしてみると、崖になっていた。中層部は水晶や宝石の明かりがあったが、崖の底にはないらしくこの距離では真っ暗闇である。最初に地下遺跡に入ったときのように階段があるわけでもなさそうだ。そこで俺はこの危機を打開する案を思いつく。


「上手くあの魔物をこの崖に落とせたら――」


 倒せるかもしれない。仮に倒せなかったとしてもこの崖から這い上がるのは困難だろう。魔繭を回収できないのは残念だが、命の方が大事である。相手の後ろに回り込めればいいのだが、それが出来たらとっくの昔に脱出している。となると――


「ガアアアッ!」

「ふんっ!」


 俺は鉤爪の攻撃を、今までのように避けたり弾いて受け流すことはしなかった。魔物の手首部分を片手で掴み、相手の運動エネルギーを利用し引き寄せる。


「うおおぉぉ!」


 さらにもう一方の腕も同様に掴み、そのまま背中から地面に倒れる動作――からの右足で魔物の腹部を蹴り上げ、後方に勢い良く蹴り飛ばした。

 そう、巴投げである。


 魔物は咆哮をあげながら闇に吸い込まれていった。魔物の身体はかなりの重量があったが、セカイダーのパワーと相手の力を利用すれば問題なかった。唯一問題があったとすれば崖の端がその衝撃に耐えられなかったことだ。


 地面が崩れ、魔物からワンテンポ遅れて俺も一緒に落ちてしまった。




次回の更新は10月20日、日曜日8:00、サブタイトルは「暗闇の光 後編」を予定してます。

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