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第十章 少女は求める(第二部)

 ふっ、と体格の良い男が笑った。

 唐突なその笑いに、部屋の奥に座っていたもう一人の男が不思議そうな顔をする。

「何だ」


「どうやら、猫が逃げ出したようだな。あんたは机の下にでも隠れときな」

 男がソファーから立ち上がるのと部屋の扉が開いたのは、ほぼ同時だった。


 その扉の向こうに立っていた人物を見て、男は面倒そうに頭をかく。

「こりゃ“じょう”の商品じゃねえか。並なら本気でいくのによぉ」


 スウィングは黙って男を睨んでいた。

 玲瓏たる青の瞳で。

「おおこわ。そんな顔すんなって。買い手がびびるだろ」


 男が抜刀の体勢をとると、スウィングも剣の柄を握った。

「傷が残らねぇようにしねえとな。値切られたらたまんねぇぜ。……こいや、坊主」


 スウィングはためらいなく男の間合いへ駆ける。

 一撃。

 スウィングの上腕にはかすり傷がつけられ、血がにじんだ。


 男は「ぐぅっ…」と言って地面に手を着いた。

 スウィングは冷たい表情で男を見る。


「捕らえた人間を全員解放して自首すると誓えば見逃してやる。もし、しないのであれば」

 刃を反して、スウィングは続けた。


「次は本気で行く」

「ふふ……本気か……」

 男はふらりと立ち上がり、壁にかけてあった剣を取った。


「俺も本気でやってやるよ」

「二刀流……」

「どうも一本じゃ足りないんでね……覚悟しな」


 男がスウィングに斬りかかったのを皮切りに、金属同士のぶつかる音が響き始めた。

 一本の刃を払っても、もう一本の刃が迫る。

 長身のためか、一撃の威力も大きい。


「ほらほらどうした! そんな細い腕じゃ満足に剣一本も使えねえのか!?」

(強い……でも)

 勝てる。


 この男は踏み込みの際の足運びが甘い。

 特に。


(左足!)

 型が崩れるその一瞬を狙って、スウィングは一本の剣の攻撃をやりすごして、相手の胴から肩へ峰に手を当てて斬り上げた。


 血飛沫があがり、スウィングの服も赤く染まる。

 しかし男は剣を床に突き刺し体勢を戻すと、スウィングを見て、血の流れる口でニヤリと笑った。


「まだだ……」

 スウィングは剣を正眼に構える。


 狙うは肩口。

 どちらかの腕を使い物にならなくしさえすれば、二刀流は使えなくなる。

 先ほどの攻撃で、スピードは落ちているはず。


 相手の技が発生する前に、間合いに侵入して———。


「!?」

(何だ……!?)


 スウィングは崩れるように膝をついた。

 手からこぼれた剣が、硬質な音を響かせる。

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