第九章 黒い髪の男達(第三部)
カチ。
(開いた)
錠を外して檻から出ると、自分が入っていた檻の他にももう一つ、同じような檻が小さな部屋の中にある事に気づいた。
部屋には、鉄格子のついた窓が一つだけある。
物音が聞こえたのか、もう一つの檻にかけられた布が、内側からめくり上げられた。
「どうやって開けたんだ? お前」
現れたのは、褐色の肌で肩につくくらいの黒い髪を持つ男だった。
その髪に映えて、赤いバンダナが目立つ。
紺色の瞳が好奇心で輝いている。
「……鍵で」
「マジで!? 嘘、どうやって手に入れた訳!? っていうか俺のも開けてくんない!?」
男の慣れ慣れしさに面くらいながらも、
「……どうぞ、他の檻の錠にも使えるのかは知りませんが」
と、スウィングは答えた。
「ものは試し、でしょ?」
スウィングが投げた銀の鍵をパシ、と受け止め、男は格好よくウインクを決める。
「……お?」
カチ。開いたらしい。
檻から出てくると、男は首を鳴らして背伸びをした。
「や~本当サンキュな。こんなんだったら、仲間から鍵のこじ開け方聞いとくべきだったかな」
「すいませんが、話をしている暇はないんです」
「おい、ちょっと待てってば。鍵は」
「要りません」
気が急いているため、スウィングは自然に冷たい口調になる。
「あー念の為に言っとくけど、ドアの向こうには見張りが三人居るよーん」
ドアのノブに伸ばした手を止めて、スウィングは男を見た。
「どうして、そんな事が?」
「俺こー見えても海賊でね、海賊稼業ってのは耳も良くないといけないのよ」
「海賊?」
「なんだその不審者でも見るような目は。信じてねーならそれでもいーさ。ざっと見、この屋敷中の見張りは100人前後。んで、ものは相談なんだけどよ。あんたの目的って抜け出すこと?」
男の態度に慣れてきたのか、スウィングは少しだけ肩の力を抜いた。
「仲間が一人、捕まってるんだ。できるならこの件に関わってる組織ごと潰したい気分だけど、それは無理だろうから……」
「そりゃあな。お前一人だったら無理だろうさ」
「剣があれば随分違うのに……」
「剣? 剣なら向かいの部屋にあるみたいだぜ。見張り倒せば多分取り返せる。へ~、お前剣使えんの。……な、協力しないか?」
「?」
スウィングはキョトンとした。
「俺の仲間も一人、別の部屋に居るんだよ。俺これでも頭だからさ。船員くらい守れねえとな」
「捕まって言う台詞じゃないな」
「あっはっは、最もだ! でもまぁ……」
男は静かに、自嘲的な笑みを浮かべた。
「好きな女の首に刀突きつけられたら、動けなくなるもんだろ、男って」
「え……」
自分と似たような経緯で捕まった人間が居た。
「おおっとォ、言い遅れたな。俺はミヅキ。お前は?」
「……スウィング」
「よし、スウィングだな。……ん? スウィング、スウィング……? どっかで聞いた事が……」
「あ、ありふれてるからな」
とぎこちなく笑ってスウィング。
「ん。そう言えばそうか」
(やっぱり偽名の方が安全か……)
適当な名前が思い浮かばず本名を名乗ってしまったことを、スウィングは少し後悔した。
(それにしても……ミヅキ? 変わった名前だな……)
「俺は西の港町から連れて来られたんだが、お前はどっからだ?」
「ファゴット……皇都との交易が盛んな街だ」
「なるほどな……人の集まる二つの街から攫ってきて、ここで合流させたって訳か。……腕に自信はあるんだろうな? スウィング」
黙って頷いたスウィングの首に「決まりだ」と腕を回してミヅキは言った。
「二人でぶっ潰すぜ、この組織」




