第七章 空の面影(第四部)
皇都ヴィオラとの交易で栄えるファゴットの街は、たとえ天空に黒い幕が下ろされても、そこかしこから漏れる店の明かりがまぶしかった。
人通りも、昼に比べると減ったとはいえ、少なくはない。
(こんなんじゃ、誰にも見られずに街を出るってのは無理だよなぁ。あ、でも、これを逆手に利用することもできなくはないか)
と、膝に肘をついて頬杖をしている黒髪の少女クィーゼルは思った。
ファゴットを東西に分ける大通りの途中にある広場には、中心に時計があり、長椅子が幾つかおいてある。
その内の一つに、シャルローナとクィーゼルとニリウスは三者三様に腰掛けていた。
通りすぎる人間の落とす影は、色々な方向から来る色々な光で何本にも分かれ、一つ一つの色も違う。
ニリウスは、ここに来て何回見たか分からない時計を見る。
9時57分。
集合時間は9時だった。
なのに、スウィングとエルレアの姿が見えない。
迷っているのか、とニリウスが何度か広場の近くを走り回ってみたが、二人の影すらも見当たらなかった。
……おかしい。
トントントントントン。
頬杖をしている手の人差し指で頬を叩くと、バッ、とクィーゼルは立ち上がった。
シャルローナと同時に。
思わず目が合う少女達。
「姫は留守番してろよ。危ないだろ?」
「あら貴方こそ。足手まといは必要ないわ」
「誰が足手まといだって? 誰が」
いきなり言い争いをし始めた二人に、ニリウスは目をぱちくりさせた。
「どこ行くんだ? クィーゼルに姫さん」
キッ、と二人がニリウスを睨む。
「探しに行くに決まっているじゃない」
「探しに行くに決まってるだろ」
探しにって。
夜のファゴットは治安が悪いことで有名なのに。
ニリウスが人通りの多い広場に二人を待機させて、自分だけでスウィングとエルレアを探しに行っていた理由もこれである。
しかし、そんなニリウスを気に留める様子もなく、二人はずかずか歩き出す。
止めるだけ無駄ということで、結局ニリウスも二人についていったのだが、何度も危ない男達に絡まれ、そのたびにニリウスが事を治めるという調子だったので、最後にはシャルローナとクィーゼルも諦めて、早朝にまた探し始めようと話し合って決めた。
そうして、大通りから離れた静かな場所にある宿に向かう途中、シャルローナはずっと俯いたままだった。
その様子が少し心配だったので、ニリウスはシャルローナの帽子の上にポン、と軽く手を置く。
普通なら「慣れなれしくしないで頂戴、無礼な」と腹を立てそうなシャルローナも、今回は何も言わなかった。




