第七章 空の面影(第三部)
少女の声を合図に、二本の剣は瞬時に離れ、激しくぶつかり始めた。
斬り、突き、払い。
まぶしく光る金の髪を翼のように背中に流しながら、少女は舞うように剣を操る。
始めは、なるべく少女を傷つけないように、強い一撃や急所を狙う攻撃を控えていたスウィングだったが、徐々にその余裕も無くなってくる。
(凄い)
素直にそう思った。
相手に“女の子”ではなく“剣士”だと思わせる太刀筋を、この少女は持っている。
全力で。
本気で戦わなければ、負ける———。
スウィングの纏う雰囲気ががらりと変わる。
防戦一方だった戦いは、互いの攻撃が交互に繰り返されるそれになる。
胴を狙った一撃を、身体をひねった状態で受け止めて下段の攻撃に繋げる。
間合いをぎりぎりまで詰めて。
木と木のぶつかる音。
速くなっていく鼓動。
浅い呼吸。
不思議な感覚に囚われる。
足が地面から離れたような浮遊感。
さっきまで頬にあたっていた風も、全身を包んでいた太陽の粒子も、何もかもが消失して、ただ世界にあるのは、自分と少女だけ。
永遠だとも、一瞬だとも思える。
———世界の色が変わるんです。革命的にね。
斜めに跳ね上がった少女の剣先を避けて、スウィングは少女の肩を目がけて木剣を振り下ろした。
空を切った後スウィングが気付いたのは、自分の胴に気づかないくらいの強さで当てられている少女の木剣だった。
スウィングが狙っていたのは、木漏れ日のような少女の残像だったのだ。
「チェックメイト」
空色の瞳が、いたずらっぽく笑っている。
「最初手加減してたから、仕返し」
やはり気付かれていた。
「ごめん……」
「でも、楽しかったよ」
乱れた呼吸を整えながら、少女はベルトに木剣をかける。
「何だか、途中から周りが見えなくなって……今までにないくらい、わくわくした」
「僕も! 僕も今までで一番、楽しかった!」
少女はニッコリと微笑む。
それを見て、スウィングも照れたように笑った。
「あ、いけない、友達が待ってるんだった! もう行くね。またどこかで会ったら、手合わせしよ? じゃあね!」
焦ったように後ろを向いて走りだした少女の背中を見て、まだ名前を聞いていなかったことを思い出す。
「ねえ! 僕はスウィング! 君は!?」
少女が遠くで振り返った。淡い金色の髪が、ぱっと青空を背景に広がる。
「——————っ!」
少女は、よく通る高い声で名乗った。




