第七章 空の面影(第二部)
金の色で思い出すのは、涼やかな風と草の匂い。
父が訪ねた、貴族の領地の広い草原で。
そうあれは、春。
世界に光が溢れ、命の息吹が大地を支配していた、八歳の春。
「うーん……もう少し左かなぁ……」
練習用の木剣で、昨日習った構えを復習する。
当時、父親の傍にいる事が多かったので、父親が他の大人達と難しい話をする時、スウィングはいつも暇だった。
そんな暇な時間には、一人外で剣の稽古のおさらいをすると、幾分時間が早く流れた。
目を閉じ、架空の相手を頭に思い描き、それに向かって下段に踏み込む。
「こうじゃなくて、もっと勢いをつけて……」
「剣先を低めに構えれば、自然と勢いはつくよ」
「わぁっ!?」
出し抜けに後ろから声をかけられ、前につんのめった。
「ああっ、ごめん、驚かしちゃった? あんまり熱心だったから、つい声をかけちゃった……」
振り向いたスウィングは、目に入ったものを見て言葉を失った。
春の暖かな日差しが人の形をとったら、多分こんな感じ。
吸い込まれそうな、空と同じ色の瞳を持つ少女が、困った様な顔をして自分を見つめていた。
太陽の光を凝縮したように輝く色素の薄い金の髪は、高く二つに結われている。
それでも先の方は少女の肘くらいまであり、かなり長いと分かった。
背の高さから、自分より少し年上だとスウィングは思う。
少女の腰には、自分のものと同じような練習用の木剣がかけられていた。
「剣、使うの?」
恐る恐る聞いてみた。
「うん」
「女の子なのに?」
「女の子だったら、使っちゃダメなの?」
「ううん、そうじゃなくて、珍しいなって……」
今まで剣の試合や練習で相手をしてくれたのは、皆自分と同じ年頃の男の子だった。
「そうだね。僕も僕以外で剣術を習ってる女の人は聞いたことないな」
「“僕”?」
「あ、変? 癖なんだ」
「ううん……格好いい……」
「あははっ、初めてだよ、格好いいって言われたの」
じっと見つめずにはいられないほど魅力的な、少女の笑顔。
「じゃあ、ありがとついでに相手してあげようか」
「えっ、でも……」
「どうしたの?」
「父上が、女のかたに剣を向けては行けないって……」
「平気だよ。ここは本邸から見えないところだから。それに、僕は普通の女の子とは違って、剣を習ってるんだし」
正直言って、ずっと一人で練習するのには少し飽きていた。
「……じゃあ、お願いします……」
少女は嬉しそうに笑うと、ベルトから木剣を引き抜いた。
スウィングも剣を構える。
双方の剣先を下で交差させた状態から、正式な試合は始まる。
同じ体勢で剣を構えた二人の脇を、遥か遠くの方から草原を波立たせて駆けてきた風が通り過ぎていった。
「行くよ」




