第五章 絶対的な賭け(第三部)
「この部屋」
少年が案内した部屋のドアを、エルレアは息を吸って止めてから、開いた。
「……?」
中に入って見ると、窓は厚く黒いカーテンで覆われ、部屋はひどく暗かった。
一番近くのカーテンを開けたエルレアの後ろで、バタン、と音を立ててドアが閉まる。
カチャ。
鍵がかけられる音。
「賭け事は、勝つことを確信してから賭けるものだろ?」
ドアの向こうで、少年は呟いた。
「嘘はつかないよ」
ドアの横に隠してあったボタンを押す。
「必要な時以外はね」
来た道を戻る少年の耳に、何かが倒れるような音が小さく聞こえた。
☆☆☆
エルレアは、部屋のドアの前に崩折れて、身体の痛みと戦っていた。
「……油断したな」
部屋の中には誰も居なかった。
カーテンを開けた後、ドアの所へ戻りノブを回したが、やはり開かない。
そして、いきなり妙な匂いがしてきたと思ったら、全身の力が抜けて倒れてしまった。
(恐らくこれは……薬物だ)
何かの薬が混ぜられた空気を吸ってしまったのだと気付く。
(まずい)
視界が激しく上下左右に揺れて、気持ちが悪い。後頭部にも、心臓の鼓動と共に痛みが走る。倒れたときに打った部分の痛みも治まらない。
意識は何とかあるが、いつまで耐えることができるだろう?
(窓を開けなければ)
ずっとここの空気を吸い続けてはいけないと、頭の中で声がする。
エルレアは、先ほどカーテンを開けた窓の方へ床を這いずっていった。
(スウィング)
痛みのせいで、ろくに働かない頭に、その顔が浮かんだ。
(どうか、ここには来るな)
身体が重くなっていく。
(もう少し)
震える手を、窓枠に伸ばす。
(届いた!)
立ち上がろうとしたエルレアは、突如暗転した世界に意識の手綱を奪われた。
窓枠をつかんでいた手が、ずるりと落ちて床を叩く。
「……力が……」
かろうじて呟いた言葉は、誰にも届かずに消えた。




