第四章 皇都からの旅立ち(第三部)
皇都ヴィオラからファゴットへ続く一本の広く長い道を、何十台もの馬車が走っている。そのほとんどが貨物を積んでいて、中には動物を運んでいる馬車もあった。
貨物の馬車の一台を、老人が走らせていた。
ゴトゴト、という揺れと共に、ファゴットの街の門が次第に大きくなってくる。
もう数分くらいで、ファゴットの街へ到着するだろう。
「さて、もうすぐ着くから、降りる準備をした方が良いじゃろうのう」
老人は、白いヒゲを撫でながら荷台へ声をかけた。
「すいません、ご迷惑をお掛けします」
青年の声が応じる。
「しかしまあ、馬車も無しでお前さん達は何をしとるんじゃ?」
「妻と二人で、大陸一周の旅をしているんです。馬車は途中で盗まれてしまって……」
「ああ、そういえば奥さんの具合はどうなんじゃ?熱は下がったかの?」
言われて青年は、自分の肩に頭を預けて眠っている女の額に手を当てた。柔らかなウェーブを描いた金の髪が、汗で濡れている。
昨夜の高熱は、大分引いているようだ。
「ええ、もう大丈夫です。長旅で疲れていたんでしょう。ファゴットで休みます」
老人は笑いながら馬に鞭を入れた。
「それもそうじゃろうて。この道を歩いていくのは、女子供には重労働じゃよ。一日中歩き続けて着ける距離じゃからの」
若い夫婦は、今朝道の中ほどで老人に拾われた。
熱を出してぐったりとしていた娘に解熱の薬を飲ませてから、二時間ほど経つ。
「宿屋に着いてまだ少し熱があったら、また薬を飲んだ方がいいじゃろうな。そこの薬を持っていくといい」
「ですが、あなたの分が無くなってしまいませんか?」
「なあに、構わんよ。家に帰れば買い置きがある」
老人はもう一度馬に鞭を入れ、馬車をファゴットの宿屋へ急がせた。




