第三章 崇高なる乙女(第四部)
オルヴェル帝国皇宮、ヴェン・フェルージュ宮殿の西には、皇宮ほどではないが、それは優美で荘厳な雰囲気を持つ宮殿がある。
現皇帝の妹姫であるフィーネ皇女が嫁いだ、皇族を構成する家の中の一つ、ロンド家が所有する宮殿である。
その客間に通されたエルレアは、まず部屋の中の人物に気がついた。
「お会いしたかったわ、エルレア・ド・グリーシュ」
赤い髪の美しい少女は、値踏みでもするように金髪の少女をじっと見た。
(シャルローナ・メイヴィル・ド・ロンド・ソルフェージュ。さすが、皇族の血を濃く受け継いだ人間だと言うべきか)
フィーネ皇女の実の娘であり、今の皇子達の従妹にあたる人間。
成人していない少女といえど、シャルローナの纏う雰囲気は皇帝のそれと酷似している。
相手を地にひれ伏させるような威圧感と存在感。
「私と初めて会って、これ程無反応な人は久しぶりだわ」
「無反応……とは?」
「誰でも決まり事のように私の容姿を褒めるから。しかも、少なからぬ『恐れ』を抱いてね。だから、貴女のような人は新鮮だわ。……大したものね」
シャルローナはエルレアから瞳を離すと、静かに椅子に腰を下ろした。
そこに座ってくださって結構よ、と言う言葉に、エルレアもシャルローナの正面の席に着く。
「皇帝陛下から依頼されたのですってね。私は一人でも良いと申し上げたのに」
「ですが、私の名をあげられたのは貴方ではないのですか?」
「ええ、言ったわ、共にするならグリーシュの娘が良い、と。理由をお知りになりたい?」
「支障がお有りでなければ」
「理由は二つあるわ。一つは、貴方の知名度が低いから。有名人を街に連れて行って騒がれたら困るもの。二つ目は…貴方が、スウィング第二皇子殿下の妃候補に挙がっているからよ」
「……私が?」
エルレアはシャルローナの言葉を頭の中で反芻した。
この少女は、自分より、他の貴族達より遥かに皇帝に近い位置にいる。
その彼女の言葉である。
「信じられない? 信じなくてもいいわ、一ヶ月以内にグリーシュ邸に手紙が届くし。まあ、一ヶ月以内にシンフォニー様を捕まえられれば、の話だけれど」
だから、とシャルローナは間を置いた。
「グリーシュにも関係の無い話では無いでしょう?」
そのとき、コンコン、とノックの音が響いた。
「手短に用件を言いなさい」
と、シャルローナ。
「できれば、顔を見て話したいんだけどな」
ドアの向こうからである。
エルレアは聞き覚えのある声にハッとする。
シャルローナは席を立ち、ドアの向こうの人物へ言葉を投げかけた。
「会いに来る時は召し使いを通して、といつも言ってるでしょう? どうぞ、入っていらしてもいいわよ」
ドアがゆっくりと開き、問題の人物が現れる。
蜜のような金髪と海のように青い瞳を持つ少年。今日は深い緑色の服に身を包んでいる。
「久しぶりだね、シャルル」




