アルバとオメガ 6
いったいどれだけの時間、アルバは弟の名を呼んでいたのだろう。病室の窓から見える曇天はいつしか暗くなっている。それにも気づかずにアルバとプティが一心にオメガと呼び続けている。まるで現し世から無何有の郷へと逝かんとする魂を呼び戻すかのように。そうして"オメガ"と幾度も呼ぶアルバとプティであったが、ないまぜにした心労があいまったために、いつしかベッドに身を預けてまどろんでしまった。
誰かがアルバの頬をつついた。それに気づき、ゆっくりと身を起こす。見ると目の前にはプティがいた。
「オメガが目を開けたお!」
「オメガ……!」
アルバが呼びかけると、包んでいたオメガの手が僅かに動き、次いでかすれた、か細い声で絞り出すように言った。
「ニーニ……、プティ……、僕はもう……、ダメみたいだ……」
「そんなことないよ」
「ううん……、僕にはわかるんだ……、自分のことだから……。だからニーニとプティに、お別れを言うね」
そう言ってオメガは今時分を確かめるかのように、ゆっくりと語りはじめた。
「プティ、君が初めてしゃべった時は本当にびっくりしたよ。でも僕は嬉しかった。一緒に冒険したり、ユウちゃんと遊んだり……、君という親友が出来て、本当に嬉しかった……。プティ……、親友として僕はお願いする。これからは僕のかわりにニーニを助けるんだ……、いいね?」
「いやだお……、僕はオメガと一緒に居たいんだお……」
「プティ……、頼んだよ?」
オメガがそう言うと、プティはゆっくりとうなずいた。
「ありがとう……、ニーニ。僕は先にいなくなっちゃうけど、ニーニは僕の分まで生きてね」
「オメガ……」
「毎日ごはん作ってくれて、ありがとう」
「うん」
「いっぱいわがまま聞いてくれて、ありがとう」
「うん」
「叱ってくれて、ありがとう」
「うん……」
「"ありがとう"がいっぱいで言いきれないや……。そうか、わかったよ、マーマの手紙の意味が、やっとわかった……。ニーニ、プティ……、ありがとう、愛してる」
満面の笑顔で、そう言った。
そして、声も消え消えにこう呟いた。
「いっぱい……、いっぱい喜んだ……」
その刹那、心電図からけたたましい異常音が鳴り響いた。
「オメガ!」
すぐさまアルバがナースコールをして、看護士と医師を呼ぶ。そうして医師と看護士が懸命に蘇生処置を施す。しかし、医師の手当てのかいなく、無情にも長い電子音が部屋に響いていく。動かしていた手を止め、脈を計り、聴診器を外した医師がアルバ達に向けて静かに告げた。
アルバがよろめきながらオメガの亡骸に近づくと、
「オメガ……、オメガ…………、僕を一人にしないでよ……。目を開けてよ…………、オメガ……、逝くな!」
それっきり、アルバは慟哭した。




