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一期一会 第二部  作者: ヤルターフ
第四編 始まりと終わり」
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アルバとオメガ 3

 こうしてオメガが病魔と闘っていた時、アルバもまた闘っていた。だが以前のように憂鬱とはしていなかった。彼は自身と向き合い、


――必ずオメガは助かる!


 と信じて勇気を奮い起こし、敢然と現実に立ち向かっていたのである。確かに、愛する者を失う恐怖、焦燥、不安といった暗い影は彼の心の深奥にへばり付いていて、全てを拭い去ることは出来なかっただろう。けれどもシャノワがそれを和らげてくれた。そしてロイドと仕事をすることでその時だけは忘れることができた。


 朝早くに起きて朝昼の弁当を作り、アパートを出て病院に向かい、オメガを見舞ってから仕立屋に出勤する。午前中はロイドに細工やレースの技法を仕込まれ、注文の品を作り、午後は御用伺いをしては客の注文を聞く。そうして仕事を終えると疲れた体に鞭打って仕事帰りの人々が行き交うわんわんお広場に立ち、オメガのドナー提供者を呼びかけていた。無視する者がほとんどであったが、中には善意を持った者もいて、彼の呼びかけに応じて提供する者もいた。やがて広場の人がまばらになると、そのままオメガの病室を見舞い、弟を励ましてから家路に着く。それからシャワーを浴び、簡単な食事を済まし、誰も居ない寝室に布団を敷いて、眠れない夜を過ごしていたのである。


 そういったとある夜、彼は薄暗い寝室で母親を想い、オメガを守るよう祈っていた時、閃光にも似た出来事が彼の胸中に走った。それはミーファと共に母親の墓参りをしたあとの事、彼女との別れ際に名刺をもらったことを思い出したのだ。彼はすぐさま秘密の場所であるタンスの一番下を全部引き出して、一枚の名刺を取り出した。その名刺には、


~~ルクレール財団~~


 と明記されていた。


          *          *          *


 ルクレール財団とは自治区における産業や文化事業、シェイン族の人権保護を円滑に推進するために創設された財団法人である。自治区の実質上の運営機関でもあり、その運営費用のほとんどはレウレトの資産運等で賄われている。財団に従事する人のほとんどはシェイン族で構成されており、理事長はドンカスター=フォーレス、アプリコット=ガイスマールとロンシャン=サザーランドの二人が理事を務め、自治区で暮らす人々の生活を支えている。しかしこの時分、ドンカスターは行方不明であり、ロンシャンが捜していたからアプリコットが理事長代理として財団を運営していた。


 仕事が休みの日、アルバはオメガを見舞い、それから藁にもすがる思いで名刺を手に持ち、わんわんお広場を挟んで統領府の向かいにある、ルクレール財団の門戸をくぐった。受付嬢に促され、近くにあったソファに腰を降ろす。しばらくすると鹿毛色の犬耳をしてスーツを着た女性がアルバの前に現れ、案内した。応接室は簡素ながらも来訪者を迎えるための必要なものは一通り揃っている。黒檀のテーブルを挟んで白のソファがあり、その傍らに赤髪と同じ色の犬耳をして、白の法衣を身に纏う年配の女性がアルバを出迎えた。

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