アルバとオメガ 2
いつしか日は傾いて、そちこちでアキアカネがたゆたっている時、ふいに一人の女性近づいて彼の名を呼んだ。
「アルバ」
顔を見上げるとそこにはシャノワがいた。
「どうして……」
「病院終わったら連絡するって言ってたけど連絡が来ないし、家に電話しても誰もいないから捜してて……
「あ、ごめん……」
「どうしたの?」
言ってシャノワがアルバの横に座る。そうして彼女はただじっとしていた。しばらくして彼が沈痛な面持ちでぽつり、ぽつりと呟くようにして、手に涙を落としつ肩を揺すらしながら話だした。
「このままドナーが見つからなくて、オメガの病気が進行したら、オメガは……、死んでしまう……。オメガが死んだら、ぼくはどうすればいいんだ……。オメガがお母さんのところに逝ってしまうんだ!」
そこまで言うと、彼は堰を切ったようにぼろぼろと涙を零し、声をあげて泣きじゃくった。シャノワが黙って手を差し出し、両腕で彼の頭を優しく包みこむ。アルバはただ、
「シャノワ……、シャノワ……!」
と彼女の膝に顔を埋めて、むせび泣いていた。やがてむせび泣きが啜り泣きになって、アルバが泣き止んで少し落ち着くと、シャノワがハンカチを渡しつつ良く澄んだ優しい声で語り掛けた。
「アルバ、あなたは一人じゃないわ。わたしがいるし、それにあなたの職場の人だっている。それにただ待つだけじゃなく、何か出来ることがないか探してみるのよ。"自分に出来る最善を尽くせば、必ず道は拓ける"って、わたしは教えてもらった。オメガ君のドナーを探すのよ。もちろんわたしも協力するわ」
「うん……、その通りだ。オメガはまだ元気なんだ。すぐ死ぬと決まった訳じゃない。ぼくが出来ることを、オメガのドナーを探すことをやってみる。シャノワ、ありがとう」
先ほどまで泣いていた顔に精気が戻り、いつもの凛とした顔に戻ってアルバは微笑んだ。
それから二日後にオメガは例の無菌処理を施した、この病室で起臥する闘病生活が始まった。アルバから事情を聞いて、いつも明るく、元気で、無邪気なオメガもさすがに衝撃の色を隠せないでいた。しかし、すぐに持ち前の明るさと勇気を取り戻して未来を楽観した。オメガの傍には親友で忠勤を尽くすプティが居て、オメガの紡ぐ世界に参加しては小説の物語を作ったり、夢や希望を語らい、励ましていた。そしてそのことがなによりの慰めになっていた。
外には出れないが、代わりに自分の作った本の世界がオメガとプティを空想の世界へと誘ってくれた。それは風になって雲に乗り、どこまでも果てしなく大空を飛翔する竜と友達になる物語である。またある時は数多煌めく幽玄の星海を渡る冒険活劇であり、玉虫色に照らされた虹の橋を歩いて最高の宝を探し求める旅行日記である。或いは悪鬼羅刹が跳梁跋扈する、摩訶不思議なる幻想世界に飛ばされて、捕われの姫君を救い出す英雄譚である。そういった、夢や希望に想いを馳せてはいたけれども、やはり薬の副作用のせいで発熱からくる倦怠感、頭痛やめまい、吐き気がオメガを現実に引き戻し、苛み、苦しめていた。




