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一期一会 第二部  作者: ヤルターフ
第三編 予兆
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英雄との邂逅 12

「つぎはなにして遊ぶかお?」


 プティに言われて、オメガが腕を組んではあれこれと思案する。


「うーん……、ユウちゃんは家族旅行で居ないし、ニーニは仕事だし……」

「ワオレンジャーごっこはどうだお?」

「今日は気分が乗らないお」

「そっかあ……、じゃあ、ナポレオンごっこは?」


 プティに言われて、オメガの脳中に電球が閃いた。

 

「そうだお! ナポレオン展に行くお。今日は最終日だから、しっかりと目に焼き付けるんだお」

「行くのはいいけど、先に買い物したほうがいいお。オメガは夢中になると時間を忘れる癖があるお」

「わかったお、買い物を早く終わらせて美術館に行くお」

「そうするお」


 言うが早いか、オメガは支度を済ませて風のように玄関を飛び出して、プティが弾丸のようについていく。そして一時間ほど経ってアパートに戻り、食材やら雑貨やらを光の速さでしまい終えると、すぐさま玄関を飛び出した。


 道中オメガが走りながら早口でプティに言った。


「早くしないとナポレオンが見れなくなるお」


 しかしプティは風を切りながら冷静に答える。


「大丈夫だお、まだ昼の一時だお。だから歩いていくお。それにこのスピードだと、あの坂の途中でバテるお」

「それもそうだお」


 そう言ってオメガは走るのを止め、てくてくと歩きだした。


 凱旋通りを背にして広場に差し掛かり、わんわん像を左にして歩いていく。統領府の表門を過ぎ、右に折れるとなだらかな長い坂のある道に出る。大人の足ならなんてことはないが、子供の足では結構な坂道である。黒の石畳で舗装された歩道をてくてく登っていくと、右手にルクレール美術館が見えてきた。昼下がりのこの時間帯は平日ということもあり、美術館を訪れる人はほぼ皆無である。オメガは小学生だったので無料で中に入ることができた。


 プティを伴ってナポレオン展のあるホールへと足を運ぶと、フランスの至宝とも言うべき数々の品がオメガ達を出迎えた。それはナポレオンが戦地にて愛用していた嗅ぎ煙草であったり、実際に着ていた薄汚れた黒萌黄の軍服とみすぼらしい三角帽が等身大のショーケースの中に飾られている。また皇帝退位の際、署名をする前にマクドナルド元帥に渡したとされる、トルコのサルタン=セリムに作らせた宝刀が置かれている。他にもナポレオンを女にしたような実妹のポーリーンを模したカノーバの彫刻や、ナポレオンがポツダム郊外にある莫哀宮サンスーシー)を訪れた際、


「余は全プロシャの王位よりも、この一剣を貴しと思う」


 と言って手に取ったフレデリック大王の佩剣(はいけん)が厳重に安置されている。中でも圧巻なのは、ナポレオンがあの史上空前の戴冠式の際に着用した金色燦然たる王衣と、法王の手より受けずして自ら進んで取りて頭上に戴いた、オリーブの葉を金で形どった王冠が並べて置かれている。オメガとプティは瞳を輝かせ、恍惚の表情でそれらを見つめては心眼に革命児を映し、時を忘れて陶然としていた。そうして二人はナポレオンの勇姿を拝もうと、彼を題材とした絵画が飾られている部屋へと移動した。


 部屋に入ると、あるものが二人の目に映った。背の高い、黒のスーツに身を包んだ男が一人。やはり同じ黒のスーツを纏っている青の犬耳をした女性が一人。その二人の真ん中に深紅のスーツを着て手を後ろに組んだ、背の低い男がまじまじと絵を見つめていた。赤髪は七対三にまとめられ、その横顔に鏡面加工を施した偏光サングラスを掛けているこの男は一種得も言われぬ近寄り難いオーラを発していた。それにも関わらずオメガ達は平気な顔して三人組に近づいていく。そうしてオメガは赤髪の男を見上げて尋ねた。

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