英雄との邂逅 4
* * *
夕陽が半分ほど沈んで、ポツポツと街灯に火が灯る中をわんバスが往く。W.D.Lの目玉であるパレードを見るためか、この時間の乗客はまばらである。アルバとシャノワの二人が一番後ろの席に並んで座り、恋仲らしく手をつないで、ただ夕陽を眺めていた。人生に於いて、言葉を必要としない時はままある。それは心身に充足を感じる時だ。幸福を噛み締めている時だ。いま二人は幸福を共有していたのである。
人々の幸せを乗せて走るわんバスはその速度をゆるゆると遅め、広場のバスターミナルに到着した。
「アルバ、今日はありがとう。とても楽しかったわ」
「うん、ぼくも楽しかった」
「じゃあ、またね」
「あ、また電話していいかな?」
「フフッ、もちろんよ」
「よかった……、じゃあ」
シャノワが帰路につき、姿が見えなくなるまでアルバは見送っていた。そうしてまだ甘く痺れる口づけの余韻に浸っていると、ふいに後ろから聞き覚えのある声がした。
「おかえりだお」
「オメガじゃないか! どうして……」
「そろそろ帰って来ると思って、プティと待ってたんだお」
言いながらオメガが見あげると、プティがひらひらと木の葉の舞い落ちる真似をして遊んでいる。
「デートはどうだったんだお?」
「えっ? まあ……、よかった、かな?」
そう言いつつアルバが耳をねじっているのをオメガとプティが温かい目で見守っている。後ろめたさに駆られたのか、やや早口になってアルバが続けた。
「は、腹減ったな、さっさと家に帰って夕飯にしよう。オメガ、プティ、行くぞ」
言ってアルバが一歩踏み出した瞬間、
「オッホン!」
という厳かな咳ばらいをして、それから声色を変えてオメガがこう切り出した。
「アルバ君、服装と、デートコースと、紳士の嗜みと、淑女のエスコート指南をしたのは誰かね?」
この言にアルバの歩調がぴたりと止んでしまった。そうして振り向くと、オメガが後ろ手に組んでしかめつらしい顔を作って立ち、プティもまた監察官のする峻厳なる目つきをしている。
「戦果報告をするのが義務であると私は思うのだが、プティ君はいかに思うかね?」
この問いにプティはひらりと体を翻し、オメガに向かって、
「その通りであります!」
と言って敬礼した。
「うむ、そうであろう。しかしだな、嘆かわしいかな、我が兄君はその報告を怠っているのだよ。このような薄情なことがあっていいものなのか? なあ、プティ君?」
「心中お察しします」
「しかしなプティ君、我が輩は兄君を責めるつもりは毛頭ないのだよ。なぜなら兄君は我が輩の助言を聞き入れ、これを巧みに使って、見事に戦果を納めることができた。その証拠に兄君は嬉々としてシャノワ嬢に手を振って、嬉しそうに、ほんとうに嬉しそうに! 見送っていたのだ。そのことが我が輩にはこの上もなく誇らしいのだよ。だからプティ君、決して兄君を責めては……」
「わかった、わかった! 風呂が終わったらちゃんと報告するよ!」
「よろしい、ではアルバ君、プティ君、参ろうか」
そう言ってにっこりと満面の笑みを浮かべつつ、オメガは鷹揚と凱旋通りに向けて歩きだした。




