英雄との邂逅 3
生い茂った草木が若葉風に吹かれる中、なだらかな山道をオメガとプティがずんずんと進んでゆく。するとある一方から、ツクツクオーシ! という鳴き声がしてきた。
「オメガ! いまのはなんだお?」
「いまのはツクツクホウシだお。セミの仲間だお」
「おもしろい鳴き声をするセミもいるもんだお」
そんな会話をしながらオメガとプティが進んでいく。やがてたくさんのセミの鳴き声がこだまする場所まで行くと、オメガが立ち止まってプティに言った。
「プティ、この辺りでセミを捕まえよう」
「わかったお、どうするんだお?」
「まずはこの木にいるクマゼミを捕まえるお」
「クマゼミ?」
「セミの仲間の中で、とっても大きなセミだお」
「なんでいるのがわかるんだお?」
「シャーシャーって鳴き声がするお。よおく聴いてみるんだお」
オメガに言われてプティが片耳を上げてじっと耳を澄ましてみる。なるほど、確かにオメガ達の傍に立つ木の上方から噴水の水が出る様に似た音が聴こえてくる。
「ほんとだお! シャーシャーしてるお」
「うんうん、そこでプティ君にさっそく指令だお。クマゼミの様子を偵察してくるんだお」
「ラジャーだお!」
言ってプティがひゅーっと飛んでいく。そしてものの一分もしないうちにぱたぱたと耳を羽ばたかせて戻ってきた。
「どうだったかお?」
興奮気味に丸しっぽを振りつつプティが答えた。
「すごいやつがいるお! なんか羽根が虹色に光ってて、とにかくでかかったお!」
「うん? おかしいお……、クマゼミは確か羽根が透明だったような……」
そこまで言ってオメガがパンッ! と、柏手を一つ打って続けた。
「そいつはトノサマゼミだお!」
「トノサマゼミ?」
「虹色に光輝く、伝説のセミだお。見つけた人にはもれなくハッピーになれると言われてるお」
「すごいお! さっそく捕まえるお」
「ダメだお。トノサマゼミは特別な生き物だから、捕まえちゃダメなんだお」
「そっかあ……」
「でも管理センターに報告すれば粗品がもらえるお」
「そしな?」
「なにかしら良い物だお」
「それは楽しみだお」
「さっそく連絡するお」
それからオメガはV・S・Nを使ってトノサマゼミの発見を報告し、違う生き物を探すことにした。セミの中でも特に発見の難しいトノサマゼミを見つけたことで、目的を変更したのである。
オメガ達は色々な生き物を探しては発見して喜んでいた。さらさらと流れる小さな小川ではフナやアユを見つけ、食いしん坊のプティが捕まえようと試みる。しかし体の小さいせいで木の葉のようにどんぶらこっこと流されてしまう。それでオメガが慌てて虫捕り網を使って、なんとかプティを掬い上げることができた。
さらにはこんなこともあった。大きなクヌギの木にオメガが登っては、カブトムシやクワガタを捕まえて自慢げにこれをプティに見せる。だがプティはこの全身が黒く艶光りした虫を大いに怖がって、ぶるぶると震えていた。なぜなら兄弟の住むアパートには、ごくたまに似たような色をした闖入者であるゴキカブリに噛まれたことがあるからだ。
こんなふうにしてオメガとプティはこの宏大なる大森林を縦横無尽に駆け回っていた。そしてトノサマゼミの大発見、カブトムシとクワガタという収穫を手にしたオメガが満足そうにプティに言った。
「プティ、そろそろお家に帰るお」
「もうかお? もっと遊びたいお」
「もうすぐ夕方だし、ニーニも帰ってくるお。ニーニを驚かせるために待ち伏せするお」
「それはおもしろそうだお!」
コオロギやスズムシ、カナカナとセミが鳴く寂寥《せきrとう》とした黄昏時、小さな狩人ともっと小さな狩猟犬は足早に家路に着いた。




