英雄との邂逅 2
言うやいなや、プティがふわと体を踊らせて部屋に戻ろうとする。だが急にオメガが顔をしかめつらしくして、威容を含んだ声で呼び止めた。
「待ちたまえよプティ君」
その言にオメガの雰囲気を察してか、プティもまた表情を厳めしくして答えた。
「ハッ! オメガ司令官、なんでありましょう?」
「なんらの準備もせず、また下調べもせずに彼の地へ赴くは愚の骨頂。貴殿は虫取りのなんたるかをご存知かな?」
「いえ、全くでございます」
「それはいかん! いかんよプティ君、虫取りには必要な装備があるのだよ」
「その装備とは?」
「セミを捕まえる虫取り網、それと捕らえたセミを納めるカゴ、さらにセミの攻撃に備えるためのむぎわら帽子と、蚊の侵攻を防ぐための虫よけスプレーなるものぞ」
「なるほど! 司令官殿はまっこと博識でありますなあ」
「なんの」
とオメガが無いひげをつまびいてなおも続ける。
「プティ君の装備はユウ殿が作ってくれた帽子だけでよかろう。我が輩も準備をするので待機していたまえ」
「ハッ!」
言ってプティがくるりと一回転して敬礼すると、どこからかグルルルという音がして、見るとオメガが腹に手を当てていた。
「準備の前に腹ごしらえとしようか、腹がへっては戦はできぬからな」
「やったお! 犬さんウィンナー楽しみだおっおー」
部屋に戻ったオメガとプティは兄の用意しておいたお弁当をペろりと平らげ、麦茶を飲みながら小休止していた。ふと卓袱台の上に乗ったプティが短い脚を使って屈伸しつつ言った。
「わんわんお公園ってどこにあるんだお?」
「わんわんお広場から出てるわんバスに乗って行くんだお」
「ふんふん、どんなとこなんだお?」
「ものすっごく広くて、大きな山があるとこだお。小さな川が流れてて、綺麗な花が咲いていて、色んな生き物がいるお」
「すごいお! 楽しみだおっお」
それからオメガ達は支度をして、コンパスやらお菓子やらを詰め込んだかばんを抱えて玄関を飛び出した。
凱旋通りを抜けて、わんわんお広場にあるバスターミナルに並ぶこと五分。わんわんお自然公園行きのわんバスがやってきて、お揃いのむぎわら帽子を被った少年とわんわんおが乗り込んだ。わんバスに乗ること十五分、舗装された道は程なくして砂利道となり、窓外を眺めればのどかな田園風景が広がっている。さらに進んで短いトンネルを抜けると、目にも鮮やかなる景色が見えてきた。
――わんわんお特別自然公園――
五百ヘクタールという宏大な敷地面積を誇る自然保護区で、シェイン族の狩猟文化保持と、貴重な動植物保護がされている特例地域である。また様々なアクティビティやわんわんおの育成を行う牧場もあることから観光客に人気のスポットにもなっている。入園する際には必ずV・S・N(※ヴォルン・システム・ネットワーク、米帝基準の通信インフラ)が内蔵されたバッジを渡され、身につけることが義務付けられている。オメガとプティは入口に行って先の二点を受け取って中に入った。なお子供は入園無料である。




