英雄との邂逅 1
時には違う目線になって世界を見つめるのも重要なことである。時に大人が子供の目線に立つのも悪くない。そうしたことでまた新たな世界が垣間見えてくるのだから。
少しく時を遡ろう。アルバが姿見を見つつ念入りに身嗜みををして、それからわんわんお広場に向かおうとしている時、オメガとプティはアパートの庭に出て洗濯物を干していた。オメガが小さな体を使って精一杯背伸びしては一つずつ洗濯バサミに取り付けていく。そしてもっと小さなプティが洗濯物をくわえてはオメガに渡していく。最後の靴下をくわえてオメガに渡したあとにプティが言った。
「ニーニ今日機嫌がよかったお」
「そうだね、お弁当作る時鼻唄してたね」
「犬さんウィンナーうまそうだったお」
「プティは食いしん坊だお」
「おっおっお」
洗濯物を干し終えてオメガが洗濯カゴを取ろうとした瞬間、
「オ、オメガ! これはなんだお?」
とプティが興奮気味に言って前脚を地面に指し示す。よくよく見るとそこには小さなダンゴムシがポツンと佇んでいた。
「これはダンゴムシだお」
「ダンゴムシ?」
「そうだお」
「ダンゴって、あのお団子かお?」
「うん」
「じゃあ、こいつは食べれるのかお?」
「フフッ、まあ見ているんだお」
言ってオメガが人差し指を一本立てて、じっと様子を窺っているダンゴムシに向ける。プティが熱視線を送る中、オメガの人差し指がちょんとダンゴムシに触れる。するとダンゴムシは瞬時にその身を丸め、ころころと転がってしまった。たまらずプティが叫んだ。
「お団子だお!」
その叫び声でダンゴムシがまた転がった。
「だからダンゴムシなんだお」
「ふむふむ、オメガは物知りだお」
「エッヘン!」
そうオメガが踏ん反り返っている間にダンゴムシが"やっ"とでも言うように体勢を直して前進を始める。だがしかしと言うかやはりと言うか、ダンゴムシの前進を阻まんとして、興味津々たるプティがちょいと前脚で触れ、それを繰り返す度にこの哀れむべきダンゴムシは転がっていく。と、どこからともなくミーンミーン! という、独特のリズムで鳴く音がしてきた。それで驚いたのか、プティがあわあわと慌てふためいて、この隙に先のダンゴムシは草むらに紛れて難を逃れた。
「い、いまのはなんだお?」
「ミンミンゼミだお」
「ミンミンゼミ?」
とプティが首を傾げている。
「ミーンミーンと鳴くからミンミンゼミなんだお」
「他にも違うやつがいるのかお?」
「いるお」
「どんなのだお?」
「うーん、そうだなあ……」
言ってオメガが狭い庭をぐるぐると歩きながら考えている。それに続いてプティもふわふわとついていく。ふとオメガが立ち止まって振り向くや、プティに向かってこう言った。
「プティ、わんわんお公園に行こう」
「公園に行ってなにするんだお?」
「いろんなセミを捕まえるんだお」
「捕まえたらから揚げにして食べるんだお!」
「食べないお、捕まえて、どんな声で鳴くのか調査するんだお」
「面白そうだお! さっそく行くお!」




