真夏の夜の夢 12
「君達、どこから来たんだい?」
「えっと……、エントランスからです」
「そこで黒服を着た男に会わなかったかい?」
「ええ、会いました」
「左手に火傷の痕がある」
「そうです」
「顔にも大きな火傷痕があって……」
「そのとおりです」
「左目が無かった」
「え、ええ……」
そんなやりとりをしていると、顔を真っ青にしたシャノワが握った手を引っ張った。それを合図にアルバが足を一歩出した刹那、係員が言った。
「その男なら、君達の後ろにいるよ」
世にも恐ろしい言葉を聞いて、二人は金縛りにあったように固まってしまった。耳を澄ませば背後から荒々しい息遣いが聴こえてくる……。気になって恐る恐る振り向けば、左手に革袋を持ち、右手には"おあつらえ向き"のスプーンを握りしめた、先ほどの男が突っ立っていた。
「おまえらの目玉を置いていけええええ!」
身の毛もよだつ絶叫を聴いて、二人は脇目も振らずに猛然と廊下を走り出した。そして突き当たりにある二つのドアの前まで来て、アルバが左側のドアノブに手をかけようとしたその瞬間、
「待たれよ!」
という大声がした。
その方へ二人が見やると、暗闇から一匹のわんわんおがふわふわと近づいてきた。
「そのドアを開けてはならぬ」
そう言うわんわんおの表情には風雪に耐えた厳しさが滲み出ている。
「わしはワンジン、世界をまたに駆ける修行僧じゃ。俗にゴーストハンターとも言う」
「修行……、ゴースト……?」
言ってシャノワが薄闇に目を凝らすと、その小さな体に橙色の袈裟を纏い、首には数珠をぶらさげている。
「ぬしらの名はなんと申す?」
「ア、アルバです」
「シャノワです」
「ふむ、よしなにな」
「あの……、何故このドアを開けてはダメなんですか?」
と怪訝な顔をしてアルバが尋ねてみる。するとワンジンが深刻な表情をして言った。
「その先は冥府魔道につながっておる。人の姿をした魔物が誘導し、もう一人が獲物を追い込む。そうしてそのドアを開けたら最期、二度と現世には戻れなくなるのじゃ」
「そ、そうだったのか……」
「本当の出口はこっちのドアじゃ。いま相棒が先に行って魔物達の様子を見ておる」
「相棒?」
と、首を傾げてシャノワが尋ねた。
「ボーマンのことじゃ。わしら二人は依頼を受けて、この屋敷に住み着いた上級悪魔を退治しに来たのじゃよ」
「なるほど……」
「話はこれくらいにして、そろそろ行こうか。ついてまいれ」
「は、はい」
そうアルバが返事をしても、なぜかワンジンは宙に浮いたまま二人を見つめている。不思議に思ったシャノワが、
「あの……、どうしました?」
と訊くと、ワンジンが恥ずかしそうにして言った。
「すまぬがドアを開けてくれんか、わしでは滑って開けられないのじゃ」
それから二人と二匹の珍道中はなかなかに大変なものだった。左半身を火傷した男の執拗なる追走から逃げ延びたかと思いきや、今度は様々なトラップが行く手を阻んでくる。そんなこんなで様々な紆余曲折を経て二人はなんとか出口に辿り着くことができた。




