真夏の夜の夢 8
「リチャード殿下、遠路はるばるようこそ」
とレウレトが拝跪の礼を取り、
「さあ、こちらへ」
言って彼を上座のソファに座らせて、自身は下座に座る。しばらくの間、リチャードはレウレトを観察していた。
――先程の挨拶といい、物腰といい、実に清々しい男だ。それでいて一挙一動に一分の無駄がない。昔、似た男を見たことがある……、思い出した。
「貴殿はアレだな」
こう前置きしてリチャードが続けた。
「ナポレオンに似ているな」
「私が?」
「そうだ、余はナポレオンを知っている」
「なんと! どのように?」
「印象だな。あの男もそうだったが、貴殿の頭上には軍星と明星が見える。もっとも、貴殿の頭上には明星が一番輝いているがな」
このリチャードの言にレウレトは表情には出さないまでも内心驚愕していた。これまで初めて会った人間にここまで鋭く自身を見抜いた者はいなかったからである。先の言に続けてリチャードが本題に入った。
「単刀直入にお伺い致す、ルクレール殿、貴殿はこの自治領区をどうされるおつもりか?」
レウレトは即答した。
「森の民の平和と安寧を築こうと思っております」
「それは誠か?」
リチャードの言葉にレウレトが力強くうなずくと、彼は安堵した。なぜならレウレトが嘘を言っていないなと確信したからだ。長年王侯貴族の間にいた彼である。虚言を見破るのは造作もない。加えて即答したということは、常にその事を考えているからこそ出来ることも知っていた。彼はこれで初めて本心を伝えることができると確信したのである。
「ルクレール殿」
リチャードがずいと体を前に動かして言った。
「貴殿を試した非礼を詫びよう。だがこうするには訳があるのだ。余の双肩には千余もの同胞の未来がかかっている。その行く末を担うに値するか試した次第である。どうか許して欲しい。余を含めたわんわんおは先の大戦に於いて主と住家を失った。そして主を捜す旅の途上に出会い、風の声を頼りに海を渡ってこの国に参った。この国には森の民が集まり、貴殿の治世の下に平和を築いておる。その中にはもしかしたら主がいるやも知れぬのだ」
さらにリチャードが音声震わせて続けた。
「仮に今は見つからなくとも、ここに居れば再会を果たすことが出来るやも知れぬ。この国に到るまでの道、我が同胞は心無い人間にさらわれてしまった。それも余を庇うためにである! 余はもう同胞の哀しむ姿を見たくないのだ。余はどうなってもよい。しかし……、我が同胞だけでも貴殿の国の法律の保護下に置き、かくまって欲しいのだ。どうか余の願いを聞き入れたまえ……、どうか!」
リチャードは体を震わせていた。いや、魂を奮わせていたのだ。そうしてその体をふわと浮かすと、床にその身を置いた。王は仲間のためにその頭を下げたのである。民あっての王、民あっての国家。艱難辛苦の道を切り開き、民を率いてこの王は公僕となりて単身統領府を訪ね、さらに頭を下げんとするか……、なんと崇高な姿であるか!
その光景にレウレトはいたく心を打たれた。胸中に稲妻が走り、雷光はレウレトの英雄魂を感激させた。椅子から立ち上がり、リチャードの前に膝下すると、手を差し出しつつ声をかけた。




