真夏の夜の夢 6
ここにいるわんわんお達はピエトロのようになんらかの仕事に従事している。それは案内係であったり、園内のパトロール、清掃、メンテナンス、パレードと多岐にわたる。ところで、彼らわんわんお達はなにゆえにここにいるのだろう。
元々わんわんおは人里に近隣する山々に棲息していた野生動物である。だが戦争という狂気がシェイン族の住む土地を奪い、多くの民が捕らえられていたように、わんわんおもまた捕えられ、珍奇な動物として競売にかけられていたのである。だが辛うじて先の業火からその身を煤だらけにしながらも逃げ延びたわんわんおもいた。そして彼らは小さな群れをなして自らの安住の地を探し求めるという、あてのない旅路に出た。
果たしてその旅は過酷かつ峻厳なるものであった。わんわんお狩りが横行していた時代。悪漢に捕われまいと小さな体を寄せて知恵を出し合い働かせては闇夜に紛れて行進していたのだ。ある時は幾日もかけて荒涼と吹き荒ぶ砂漠を行進し続けた。時に凄まじい砂嵐が来ると予見しては即座に穴を掘り、はぐれないよう身を寄せ合って風を凌いだ。あまりの乾燥と高熱により、ばたばたと倒れゆくわんわんおもいた。しかし彼らはその歩みを止めることはなかった。その哀しみを小さな体に抱えつつ、三顧しつつも前進を続けていた。彼らわんわんおにはそれぞれ特技があった。夜空の星を見て方角を測る者。仲間の誰よりも夜目が利いて、空高く飛べる者。危険察知に優れた者。嗅覚が非常に鋭敏で、風に乗ってくる水の匂いを探り当てる者。人間社会の風俗に詳しい者等々……。こういった者達が集まって、時に互いを励まし、苦労を分かち合ってはこの辛酸を舐めるような、流浪の旅を続けてきたのだ。
やがてわんわんお達は旅の途中、行く先々で同じ志を持つ仲間達に出会えた。その小さな群れはやがて大きくなり、運命共同体とも言うべき小さな社会が生まれた。そして賢明なるわんわんお達は考えた。このままの状態で旅を続ければ、人間達に捕まる可能性が高い。現にこれまでの旅で捕まった仲間達も少なからずいたからだ。さらにこうも考えた。集団で移動するには、あまりに規模が大きい、とも。なにせ世界中から集まってきたわんわんお達である。その数一千は下らない。とある小さな森の大きな切り株中心にして集まり、それぞれの代表であるわんわんおが会議を開いていた。そしてこの大きな切り株の上にバスケットボール大の、ひときわ大きなクリスタル製のわんわんおが乗り、会議を執り仕切っていた。
竜ひげ厳めしく、威風堂々たるこのわんわんおは名をリチャードという。その体の大きさと、立ち居振る舞いから他のわんわんおは親しみと尊敬をこめて王様と呼んでいる。リチャードはさる王族の迎賓閣に置かれていたもので、先祖伝来華美なる生活を見つめてきた。しかしある権力闘争に巻き込まれ、財産と領地は没収され、地位と名誉を盗まれた所有者はそれを苦に自殺した。財産整理には主に競売を利用するのだが、その折ぼ事、金に換えられると知ったリチャードは悵然かつ痛憤して、
「余は賎しくも王族に献上された者である。たとえ野にくだろうとも、この誇りだけは失うものか!」
そう心奥から狂叫すると、光沢麗しき体をふわりと浮かすや、ぶんと勢いをつけて会場のドアをぶち破った。




