真夏の夜の夢 4
「前にも遊園地に行ったことあるの?」
「あるよ」
「誰と……?」
「お母さんとオメガとだよ」
「そ、そうなんだ……」
言ってシャノワは胸を撫で下ろした。と、同時に恋慕う人に対して疑念を持ったことに良心が痛むのを感じていた。けれども彼女がそうなるのも仕方がない。なぜなら彼女の同僚や先輩がよくアルバの名を挙げて歓談をしているのを聞いていたし、また現にここに来る途中、アルバを見て指差す女子学生や、すれ違いざまに振り返る女性がいたのだから。
突き詰めれば、嫉妬するということは、その人を理解して再認識することだ。それを昇華させて恋人に翼を与えるか、首輪をつけるかが問題だ。特に前者には寛容と慈悲が必要になってくる。しかし時に慈悲を押し売りして恋人を苦しめてしまうことがある。そういった場合、たまには首輪を外して空を自由に散歩させなければならない。しかしあまりにも放っておくと寂しがるし、そのせいで帰って来なくなる場合もある。ゆえに男女の間にある隔たりほど、遠くて近寄りがたいのかも知れない。 だがこの二人にとって、こういったことはあまり関係なかった。なぜなら二人とも目に見えない大切なものを知っていたのだから。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
言ってアルバが席を立ち、シャノワの椅子を引く。すると、
「ありがとう」
とシャノワが微笑んだ。
ビンテージを出ると広場を挟んだ正面に統領府駅があって、バスターミナルがある。そこから愛嬌のある顔と卵型のフォルムが人気のわんわんバスが次々と観光客を載せて目的地へと向かっていく。
彼らのお目当ては自治領区にある唯一の娯楽施設、わんわんおドリームランド(※通称W.D.L)である。観光客に混じってアルバとシャノワが乗り込む。わんバスが発進して五分ほど走ると、右手にルクレール国際空港が、左手には全長四キロ、幅二十メートル、高さ十五メートルの橋が見えてくる。アルバ達を含む観光客を載せたわんバスは左に折れて、わんわん大橋を渡っていく。すると朧げながらも子供達の夢の国が見えてきた。
――わんわんおドリームランド――
元々は皇国と民間企業の共同出資によって臨海都市開発が進められていた。しかし自治領区が設けられると、この計画は頓挫してしまった。そこでレウレトが自治領区と自身の創設したルクレール財団から共同出資するという第三セクターの形をとり、新たに開発を進めて建設されたアミューズメントパークである。
政治を執り行うに当たって、財政と金融の二つが重要になってくる。レウレトがこの自治領区に於いて政治を行う際、財政政策の一貫として観光事業を推進した。教育、科学、文芸、美術等、国の根幹となるこれらを自治区民に浸潤させるにも財源は必要不可欠であるからだ。また金融政策に至っては戦争で疲弊して財政難に陥っていた皇国から国債を買い、さらに米帝からの政府開発援助を得ることにより、自治領区の貨幣価値向上に力を入れた。これにより輸出入産業に頼る皇国の財政再建の目処が立ち、対東アジア外交のカードにもなりうる。この山と海に囲まれた、風光明媚な自治領区を世界に冠たる一大観光都市にするべく行ったW.D.L建設は、彼の財政政策の眼目であったのだ。




