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一期一会 第二部  作者: ヤルターフ
第三編 予兆
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真夏の夜の夢 2

「おはよう」

「お、おはよう」

「待った?」


 言われて犬耳が揺れるほど、ぶんぶんと顔を横に振ってみせる。


「良かった」


 言って彼女が微笑して顔色を明るくさせる。それでアルバはハートを射抜かれてしまった。こうなると男はもうお終いだ。あとはただ女神に従うしか手段は残されていない。だが、ささやかな抵抗はしてみるものだ。


「シ、シャノワ」

「なあに?」

「今日は……、一段と綺麗だね」


 犬耳をねじりつつ少し目を逸らして言うと、


「あ、ありがと……」


 と、シャノワがほんのりと頬を紅く染めて答える。そうして二人は互いに向かい合い、顔をうつむかせてしまった。そんな二人をわんわんお像が温かい目で見守る中、ふいにアルバが顔を上げて言った。


「い、行こうか」

「うん」


 車道側にアルバが、その左隣にシャノワが並び、手と手が触れ合うかの距離を保って統領府のある方へと進んでいく。そうしていつ手を繋ごうか、この均衡をどうやって破るかを二人が窺っている。こういった知恵比べをしているうちに最初の目的地に到着した。ルクレール美術館はレウレトが学術、産業等を振興させるべく建てた施設の一つである。運営は自治区の税金ではなく、彼の創設したルクレール財団が賄っている。アルバがシャノワを誘ってデートコースの一つとして選んだ美術館は当時、ナポレオン展を開催していた。


 レウレトのナポレオン癖は有名である。その一例に戦争終結後、彼が第三統領として欧州の平和外交を行うために最初に赴いた国がフランスである。そして電撃外交という過密日程にも関わらず、彼はナポレオンの玄孫と会う機会をスケジュールに無理矢理ねじこんでいた。その会談の折、自身がいかにナポレオンを尊敬し、崇拝し、愛しているかと熱弁を奮って聞かせた。そしてとうとうナポレオンゆかりの品々を展示する許しを得てしまった。およそストイックな彼だが、ナポレオンのこととなると話は別である。自治領区の政務に精励して月に三日しか休暇を取らなかったが、そのうちの半日を使ってこの美術館に入り浸っていた。一人の天才が、もう一人の天才と対話していたのだ。


 そのことをシャノワは知っていた。そして御屋形様に会わないかと恐れていた。なにせこのデートは二人だけの秘密で、まだだれにも話していないのである。だけれども彼女の心配は杞憂だった。この日、レウレトは高効率石炭精製技術(※主に石炭を採掘する際に発生するメタンや精製する際に発生するガスをエネルギーに交換する技術)に関する研究施設を視察していたのだから。ただ、アルバとおみやげを買う時、偶然にも屋敷で働く同僚と出くわしてしまった。あとで質問責めに遭うんだろうなあ、と彼女が憂鬱になって歩いていると、彼が立ち止まって貼り紙を見ていた。


「どうしたの、アルバ?」

「うん、少し気になってね」

「ああ、これね。わたしも楽しみなんだ」


 二人の見ていたポスターにはこう書かれていた。


~~


――シェイン自治区文化振興博覧会――


 当美術館に於いて、上記の博覧会を開催することに先立ち、絵画、書、写真、彫刻、工芸、調度品の六つの分野に分け、コンクールを行う。


 出品期限、八月末まで。

 結果発表、十二月二十四日。


 なお作品の展示は結果発表後、出品者に通達するものである。


 ルクレール財団


~~

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