真夏の夜の夢 1
時節は盛夏七月。空を見やると、入道雲が城のようにそびえ立ち、天守閣から太陽が顔を覗かせている。時折、軒先から燕の親鳥が飛んでいってはその身を翻して巣に帰っていく。レンガ造りの統領府駅前(※現ルクレール駅)に広がるわんわんお広場には夏季休暇を利用して観光に来る多くの人々で賑わっていた。レウレトが来た当時とは比ぶべくもなく、この辺りの景色は全く違うものとなってしまっている。戦争による惨禍が認められたこの街は、彼の雇用政策の一環である公共事業によって生まれ変わった。どのようになっているのかを駅建物の大時計にいる鳩の目線で説明しよう。
赤いレンガが敷きつめられたわんわんお広場は半円状の形をしていて、その中心に噴水が置いてあり、外円から道が三つに伸びている。噴水を背にして左に行く道は幹線道路に繋がっており、海港や空港からの積み荷等を運ぶ重要な流通経路となっている。右へ行く道には統領府を中心とした各省庁の関連施設と各国大使館、コンサート会場や美術館等の文化施設が集まっている。そして噴水の先にある中央の道は凱旋通りへと通じている。視点を変えて、今度は凱旋通りから見てみよう。市場から遠くを見ると、フランスの凱旋門をモチーフにした統領府駅が見えていて、わんわんお広場まで続く歩道には桜の木が堵列している。春になると一斉に花を咲かす風景は殊更に美しく、そのために人々からこの街は桜華街と呼ばれている。
さて、噴水の真裏には高さ三メートル、幅一メートル、全長五メートルのわんわんおが、高さ一メートルの見事な意匠をこしらえた台座に乗って観光客を迎えていた。銅で作られたこのわんわんお像は雄大な雰囲気を醸し出していて、愛嬌のある表情は皆に愛され、桜華街の象徴となっている。その傍らに一人の少年が佇んでいた。黒の革靴を履き、白のチノパンを赤のサスペンダーで留め、乳白色のワイシャツを羽織り、左腕にアナログ式の腕時計を着けた、銀髪直毛の少年はアルバである。彼はシャノワと待ち合わせする為にこのわんわんお像の前に来ていた。先のコーディネートは弟を伴い、自身の働く仕立て屋にて見繕ったものである。
――オメガには夕方に帰ると言っておいた。弁当を持たせているから心配はない。まあ、大丈夫だろう。
そう思って腕時計を見ると、待ち合わせの時間まで二十分もゆとりがある。
――少し早かったかな、遅れるよりはマシか。シャノワはどんな服を着てくるのだろう。きっとなにを着ても似合うんだろうなあ。
そんなふうに恋慕する人を思い浮かべては心奥をジリジリと焦がしている。心当たりのある方もいるだろう、恋人を想って待つ身もまた一つの楽しみだ。そんなふうに耳をねじりながら夢想する彼の背中をついついと指でつつくものがある。それに気づいて振り向くと、そこにはつい先程まで脳裏に描いていたシャノワがいるではないか。内に跳ねた艶やかな黒髪に白の髪飾りを着け、胸元にフリルを配した白のブラウス、膝丈まである黒のミニスカート、白のソックス、緋色のブーツといった装いで彼女が佇んでいる。アルバは当惑した。まず、声を失った。続いて雑踏や喧騒といった、周囲の雑音が聞こえなくなった。そして彼女の姿、とりわけスカートとソックスの間に見える、透き通った白い素肌に心を奪われた。あまりに刺激的なのと、強い日差しも相まって彼はめまいを覚えた。そんなふうに魅了され、陶然とするアルバにシャノワが声をかけた。




