暁闇 3
小さな寝息が醸し出す、妙なる空間に誰かがノックをして入ってきた。深紅のメイド服を着たシャノワだ。彼女は休憩を利用して兄弟を見舞うために来たのである。シャノワの姿に気づいたプティがアルバを起こそうと、ふわと体を浮かす。だが彼女が人差し指を自分の口にあてる。それで察したのか、プティがオメガの枕元に戻り、シャノワはベッドの傍にある丸椅子にゆっくりと腰を下ろす。そうしてオメガの耳を撫でつつ頭を壁にもたせ掛け、両手を膝の上に組んで置き、静かな寝息をたてているアルバを見つめていた。
――君はいつもわたしの前では弱音を吐かない。少しくらいは話してもいいのに。そうすれば、少しは君の苦しみを和らげることができるのに。凛々しく、可愛らしく、いじらしいアルバ。どうかわたしを頼ってください。そうすれば、わたしはあなたを慰めることができるから。そのことが、わたしには嬉しいから。
ふと、シャノワはアルバの耳を触りたくなった。けれども途中で思いとどまった。アルバがオメガを心配していたように、シャノワもまた愛しい人の寝顔を見て安心したからだ。
「頑張ったね」
そうシャノワが囁くとアルバは、
「うん」
と目を閉じたまま返事をした。寝言だ、そう思い、シャノワは微笑んだ。それから少しく時間が経って、病室が黄昏色に染まった頃、オメガが目を覚ました。
「プ……、ティ?」
その呼び掛けに答えるかのように、プティがオメガの頬に頭をこすりつけた。
「くすぐったいよ、プティ」
言いながらオメガはプティの頭を撫でて続ける。
「プティ、ニーニは?」
ふわと浮いてプティはアルバのいる方に顔を向けた。
「ニーニ、寝てるね」
「うん」
「また口を開けてるお、ニーニだらしがないお」
「おっおっお」
「プティ、だれか来たの?」
「シャノワお姉さんが来たお」
「そうなんだ……。ぼく、マーマに耳を撫でてもらった気がしたよ……。あとでニーニに教えないとね」
「そうだね」
言ってプティはうなずき、膝に置かれたアルバの手をついついとつつくと、それに気づいたアルバがオメガの傍に寄った。
「よかった……、本当によかった……」
「ニーニ……」
兄弟が心を交わしていると、ちょうどドアを叩く音がして、オメガの手術を担当した医師が病室に入ってきた。
「いま、大丈夫ですか?」
「はい」
「今後の予定を伝えに来ました。今日と明日はこの部屋で経過を看ます。二次感染の疑いが無ければ呼吸器を外して一般病棟に移るでしょう。それ以降のことは追ってまた話しましょう」
「先生、ありがとうございました」
「いえいえ、本当に頑張ったのはオメガ君です。彼を褒めてあげて下さい」
「はい」
「ではまた」
医師が病室から去るとオメガが言った。
「ニーニ、また眠くなってきたから少し寝るね」
「ああ、わかった。ニーニは少し出かけるけど、夕方にはまた来るからな」
「わかったお、おやすみなさい」
「おやすみ」




