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一期一会 第二部  作者: ヤルターフ
第三編 予兆
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暁闇 1

 オメガの入院している部屋は他の病室と比べると、ほぼ無菌状態に保たれている。その処置は徹底していて、ベッドを取り囲むよう透明のビニールのカーテンで間仕切りされている。これは免疫力が低下して細菌に感染するのを防ぐための処置だ。患者を見舞う際、まず服の埃を払い、つぎに滅菌処理を施した服に着替え、さらにアルコールで手を消毒して、口元を覆うマスクを装着する。それではじめてカーテンの中に入れる。


 入院の二日目にオメガは精密検査を受け、その翌日に結果が出た。やはり医師の推測した通りのものだった。しかし発見が早かったこともあってか、手術をすれば治る公算が高いだろうとのことだった。さらにオメガに骨髄移植をする適合者がすぐに見つかった。その適合者とはアルバだ。病室でオメガと共に医師の説明を聞いたアルバは胸を撫で下ろしていた。このまま適合者が見つからなければオメガの病気は進行して、回復は絶望的なものとなるからだ。早いほうがいいということで、オメガは一週間後に手術を受けることになった。


 説明を受けた次の日、アルバは手術に必要な骨髄を取る処置を行った。注射器を腰に打たれる際かなりの激痛を感じたが、これで弟の病気が治るとアルバは痛みに堪えていた。手術までの間、オメガは暇で仕方なかった。退屈しのぎに部屋の白い壁を見ては脳裏に欧州地図を描き、空想に耽っている。そこにアルバがやってきた。


「ニーニ、家から本持ってきてよ」

「いいよ、なんの本がいいんだ?」

「レ・ミゼラブル、あと……」

「あと?」

「プティ連れてきて」

「プティね、他は?」

「ユウちゃん」

「ユウちゃん……、っと。明日は学校休みだから、お願いしてみるよ」

「ありがとうだお、ニーニ大好きだお」


 次の日、さっそくアルバは弟の願いを叶えることにした。オメガの要望した本をかばんに入れ、プティがその中に飛び込んだ。そのかばんを持ってアルバは百科書店に寄ってユウと合流して、オメガのいる病室を見舞った。その際にアルバがかばんからプティを出して、


「ちょっと我慢しろよ」


 と、言ってプティにアルコールを満遍なく吹き付ける。事前に医師に相談していたのだが、プティに関しては木彫りの置物ということにしていたので消毒をすることになっていたのだ。心配したオメガがアルコールまみれのプティに声をかけた。


「プティ、大丈夫?」

「大丈夫だお、でもかなりスースーするお」


 こんなふうにアルバはオメガを見舞っていた。この少年とも言えない小さな子供の心を慰め、不安を取り除き、勇気を与えていた。その様子はまるで自分に言い聞かせるようでもあった。そうして一週間が過ぎて、手術の日が来た。


 午前十時、アルバがいつものようにオメガの傍らに付き添い、オメガの世話をしている。そこへ担当の医師が二人の看護士を伴いやってきた。


「手術が終わるまで、ニーニはお母さんに祈っているからな」

「うん、頑張る」


 怖かったのだろう、オメガの小さな手は震えていた。だが恐怖を打ち払うように笑顔で答えていた。それを聞き、神妙な顔をしてアルバが医師に言った。


「先生、オメガをよろしくお願いします」


 看護士がオメガの寝ているベッドを動かして部屋を出る。アルバがそれについて行く時、プティが肩に乗った。白く長い廊下をアルバはオメガに付き添っていく。そして手術室の前に来た。


「オメガ」


 アルバが呼ぶと、オメガは何も言わず、ただにっこりと笑ってうなずいた。そうしてオメガは手術室に入っていった。

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