行方不明 4
「ヘヘッ、わかりがいいねえ……、確かに見たし、話もしたぜ」
「いつ?」
「三日前だったかな、一緒に飲んでたよ。そういやあ、ジジイも犬だったなあ」
犬と聞いてロンシャンが男を睨みつけた。すかさずバルバロッサが手を握って彼女の怒気を逸らす。
「そのジジイ、始めは黙ってたんだけど、ゆっくり喋りだしてな。おごってもらった恩があるから黙ってジジイの話を聞いていたんだ。オレは犬も大変なんだって思って慰めてやったのよ。それで意気投合して朝まで飲んでいたわけだ」
三度男が犬と言ったので、たまらずロンシャンが席を立とうとする。その途端にバルバロッサが彼女の手首を握りしめ、彼女を抑えつつ話を続けた。
「どのような話を?」
「さあな、あんま覚えちゃいねえよ……。ああ! いま思い出したぜ」
そう言って男がしたり顔をすると、カウンターに置いてある金貨を人差し指で三回叩く。それでバルバロッサが回数分だけ金貨を置いた。
「そうこなくっちゃ! ジジイは世界中を旅してまわっていたとか、仲間が増えて嬉しかったとか、森の生活は楽しかったとか……、最初は上機嫌でしゃべっていたよ。だが急に寂しそうな顔してな……。なんか森が無くなっただの、仲間が居なくなっただの……」
男がグラスに入ったウィスキーで喉を潤して、話を続けた。
「ようやく一区切りついたから、あとは若いのに任せるとか、疲れたとか……。それで店が閉まるから外に出て、おれの家で飲み直さないか? って、聞いたんだ」
「そうしたら?」
「これから行くとこがあるって言ってたなあ」
「どこへ?」
「場所はわからねえ、ただ……」
「ただ?」
「親友に会いに行くって言ってたな、それでジジイとは別れた」
* * *
家に戻ると二人はさっそく酒場で得た情報をアプリコットに伝えた。
「親友……、ですか」
「はい、親友に会いに行くと男が言っておりました」
「まだロンシャンが居ない頃のことですが、当時はドンカスターとわたし、そして妹のベルベッドが族長をしていました。その時に親友の話を彼がしていたのを覚えてます。ですが、それは人ではありません」
「アプリコット、もしかして親友って"木"のこと?」
「そうです。仲間が増え、いつか世界に認められたら報告するんだと話していたのを覚えています」
「その木はどこにあるかわかる?」
「詳しくは話してくれませんでした。ただ、森が森と呼ばれる前からの、古い古い友人だと言っていました」
「じゃあ木を探せばドンカスターが見つかるわけね。さっそく明日から捜しに……」
「お待ちください。木は多く、むやみに捜しても見つかりません。おそらく長い旅になるので準備も必要です。それに……」
言ってバルバロッサがちらとアプリコットを見やる。
「私の事は大丈夫です。自分のことは出来ますし、他の仲間と協力して事にあたります……。バルバロッサ」
「はい」
「ロンシャンを頼みます」
「かしこまりました、このバルバロッサ、身命を懸けてロンシャン様をお守り致します」
こうしてロンシャンとバルバロッサはドンカスターを探す旅に出ることになった。その経緯については折に触れ、また別の機会を設けたい。
ところで、イェオーシュアが世を去って、遺された愛児二人は今頃どうしているのだろう。