希望と憂鬱の狭間 2
「オメガ?」
アルバがベッドの傍に寄って声を掛けると、オメガが静かにまぶたを開いた。
「気分はどうだ?」
「うん、さっきより良くなった」
「よかった、二、三日は入院したほうがいいって病院の先生が言ってたよ」
「おうち帰れないの?」
「ああ、でもオメガが元気になれば帰れるよ。だからちゃんと寝ていないとダメだぞ」
「うん」
「プティ、ぼくが居ない時はオメガが無茶しないよう、しっかり見張るんだぞ。なにかあったらこのボタンを押すんだ。いいね?」
「わかったお」
そんな会話をしつつ、面会時間の終わる午後八時までオメガの面倒を見て、それからアルバは帰路に着いた。辺りはすっかり暗くなっていて、街灯もどこか朧げに明かりを燈している。一人歩くアルバはふと思った。
――まだ夕飯食べてなかったな……、どうりで腹が減ってるわけだ。そういえば一人で食べるのは初めてかも知れないなあ。そうだ、帰ったら親方に電話しないと。そのあとシャノワにも電話して、それから……。
一日、二日と過ぎて、三日目にはオメガの体調はすっかり快復して、昼頃に退院した。アパートのドアを開けると、オメガが目をまん丸くしていた。なぜならリビングにはユウがいたからだ。
「オメガ君、お誕生日おめでとう」
と、ユウが言ってオメガに花束を渡す。退院したその日はオメガの誕生日でもあったのだ。
いまオメガ達が居るリビングには卓袱台と、もう一つ小さなテーブルが並んでいて、その上にケーキと鳥の唐揚げに犬さんウィンナーや卵焼きと、他にもいろいろと料理が並べられている。これらはオメガをびっくりさせようと、アルバが提案し、シャノワとユウが準備したものだ。かくして主賓の登場に伴ってオメガの誕生会が始まった。誕生歌を皆で歌い、オメガが蝋燭の火を消す。皆が拍手をして祝福し、それぞれ手にジュースの入ったグラスを持ち、乾杯をする。その頭上ではプティが体をひねらせながら、くるくると宙を飛び回っていた。
それはアルバにとって、オメガにとっても代え難い、最も幸せな一時の一つであった。しかし、この時のオメガにとって、これが最後の誕生会になろうとは思いもしなかっただろう。それは兄であるアルバにも同様である。病魔は静かに、ただ確実に刻々とオメガを蝕んでいく。
誕生会から一週間が経った頃。オメガが入院した際に行った検査の結果を聞くため、アルバは桜華街の外れにある病院に来ていた。しばらく小児科の待合室で待っていると、看護士に呼ばれた。
「先生、検査の結果は?」
神妙な面もちをして医師はしばらくカルテを睨んでいたが、ゆっくりと目線を上げ、厳しい顔をして重そうに口を動かした。
「良く聞いてください。オメガ君は白血病の疑いがあります」
「白血……、病?」
「簡単に言いますと、血液のがんです。このまま放置しますと、手遅れになる恐れがあります」
「手遅れ……、弟が……」
「一刻も早く入院して、処置を施さないといけません」
「弟は……、病気は治るんでしょうか?」
「もちろん最善を尽くします。ですが、万全とは言い切れません。」
「そんな……!」
「とにかく入院をして、少しでも体力があるうちに手術をしたほうがいいでしょう」
「わ、わかりました……」




