希望と憂鬱の狭間 1
時節巡って、陽春五月の太陽が東の空に昇ってきた。ぽっかりと浮かぶ雲が照らされて朝焼けを彩り、柔らかな日差しが桜華街に降り注ぐ。もちろん兄弟の暮らしているアパートも例外は無い。朝日がちらちらと庭を照らし、草むらでは雀たちが挨拶を交わしている。その音を耳にして、窓の縁に置いた小さなクッションの上に寝ていたプティが目を覚ました。そしておもむろにふわと浮き、アルバの顔に近づいて、ついついと顔をつつく。すると、
「ダメだよシャノワ……、そんなことしたら……」
と寝言を言ってなかなか目を覚ましてくれない。やれやれ、といった風情でプティが肩をすくめると、日頃オメガに教わっていたおもちゃのピアノを使って歌い出した。
「あっさだー、あっさーだおー。あっさひーがーのぼるー……」
軽快なリズムに妖精のさせる声に乗せてプティが歌うと、ようやくアルバが目覚めた。
「オメガ、朝だよ」
「ニーニ、体がだるい……」
「どれ……、熱があるな。一緒に病院に行こう」
「わかった」
弟の体調が優れないために、アルバは働き先のロイドとオメガの通う学校に休むのを伝え、それから支度をして病院に向かった。
風邪に罹ったのだろう。そう医者に診断され、薬をもらうと昼前にはオメガの手をひいて家路に着いた。
「オメガ、ニーニは仕事に行くけどちゃんと寝てるんだぞ。あと昼ごはん作っておいたから、食べて薬を飲むんだ、いいね?」
「うん……、わかった」
返事を聞いてアルバは母親がしてくれたのと同じようにオメガの頬にキスをして、それから玄関を出た。ただの風邪だから、すぐに良くなるだろう。そうアルバは楽観していた。しかし一日が過ぎて、二日経ってもオメガの熱が下がらない。そうして三日目の昼頃に事態は悪化した。午前中のご用伺いを終え、広場のカフェテラスにてアルバが昼食をとっていた時の事。そこになにやら小さな物体がもの凄い勢いで飛んでくるのが見えてきた。プティだ。アルバを見つけるとテーブルの上に着地をして、慌てた様子で話しはじめた。
「大変だお!」
「どうしたんだ?」
「オメガがとっても苦しそうなんだお!」
「オメガが? わかった!」
言うやアルバは取るものもとりあえず、オメガのいる自宅へと走った。着くとドアが開いていて、息をきらしたアルバが覗いてみると、その傍には顔を赤くして、ぐったりしているオメガが横たわっていた。
「オメガ!」
「ニー……、ニ?」
「いますぐ救急車呼ぶからな!」
そう言ってアルバが受話器を取る。待つこと数分、サイレンを鳴らして救急車が来た。
「プティ、一緒に行くぞ」
「わかったお!」
救急隊員がストレッチャーにオメガを乗せて車の中へと運ぶ。アルバとプティも一緒に乗りこみ、ドアが閉まると救急車はサイレンを鳴らして発進した。病院に着き、オメガは緊急治療室に運ばれた。その部屋の前にある長椅子にアルバは腰を降ろし、プティはアルバの肩に乗り、共にオメガの無事であることを祈っていた。三十分くらい経っただろうか。治療室から医師が出てきて、オメガの容体を伝えた。医師が言うには容体は安定し、熱も下がるだろうとのことだ。しばらくして面会が許されて様子を見に行くと、ベッドにはオメガが静かに寝息をたてていた。




