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一期一会 第二部  作者: ヤルターフ
第二編 純情詩篇
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シャノワの憂鬱 5

 捜すあても無いので彼女は帰ろうと思った。が、途中で思い直した。どうせ外に出たのだから最新号のファッション誌を買っていこうと決めた。それで彼女は重い足取りで百科書店に向かった。しばらく立ち読みをして、それから買い物をして帰ろうと市場に向かうと、後ろから聞き覚えのある声が自分を呼んだ。栗色の髪の毛をおかっぱにしたオメガだ。そのオメガが家に遊びに来ないかと提案するではないか! もちろん断る理由がない、なぜならキューピッドが手を差し延べているのだから。それで彼女は二つ返事をしてオメガの後について行く。てくてくと歩くオメガを見つつ彼女は思った。


――こうなることがわかっていれば、しっかりメイクをして、いざという時のために買っておいた服を着ていったのに。でもアルバに会えるのだから、これで良しとしよう。


 そう開き直って歩いていくと、兄弟の住んでいるアパートに着いた。オメガに促され、しずしずと彼女が玄関に入る。


――アルバはどんな顔をして自分を迎えてくれるだろう。きっと驚くだろうな。


 そんなふうに期待しつつ靴を揃えていざリビングへ。そしてアルバはどこかと部屋を見渡してみる。だがそこには彼女の期待を遥かに超える光景が展開されていた。そうしてそこから目が離せなくなってしまった。アルバの着ている、わんわん戦隊ワオレンジャーのワオレッドが固まっている彼女を見て笑っていた。一瞬だけ妄想の世界に行っていた彼女がなんとか現実世界に戻ると、コンロの前で腕を組み、仁王立ちをしてやかんを見張っているオメガに声をかけた。しかるに彼女はオメガの提案を断った。あられもない恰好をしたアルバがあまりに珍しく、興味津々であったからだ。


 おずおずと猫の怯えるようにして彼女が座布団の上に腰をおろす。オメガがお茶を卓袱台の上に置いても彼女は上の空であった。そして彼女の鼓動は早鐘を打つようにそのリズムを速くしていた。緊張していたのだろう、渇いた喉を潤すために彼女がオメガの煎れたお茶を一口飲む。それから改めてアルバを見つめた。指で触るとほどけそうな、しなやかな銀髪。うっすらと浮きでている首の筋。はだけたシャツから見える引き締まった腹筋。そこからすらりと伸びた脚が艶めかしく、くの字に曲がって組んである。顔の方へと視線を移すと、いつもの凜としたのではなく、あどけない表情で口を開けて眠っている。そうしてしばらく眺めていると、ふとアルバが目を覚ました。それで彼女はつい顔をうつむかせてしまった。


 気まずい雰囲気をごまかすように、つと彼女が立ち上がる。そして平静を装ってトイレに入る。あまりに刺激が強すぎて、気持ちを調えるためにそうしたのだ。しばらくして早鐘を打っていた鼓動が落ち着いてきた。トイレから出るとアルバに促されてソファに座る。そうしてついいましがた寝ていた彼の温もりを感じていた。ふいにアルバから色紙を差し出された。そこにもう一人アルバがいて、自分を描く時に見せるあの眼差しをこちらを向けている。それを手にした彼女は一種の充足感に満たされていた。色紙の右隅にあるA.Aのサイン。今まで描いてもらった色紙と、卒業式にプレゼントされた絵と同様に刻まれている。そのことを思い出して話すと、アルバはやっと彼女のことを思い出してくれた。


 つと彼がアルバムを持って自分の隣りに座ってきた。そうしてアルバムに指差しては無邪気な顔を寄せてくる。洗髪剤の香りに酔いそうになるのをこらえながらも彼女がアルバムに指を添える。ふとアルバが語り始めた。それは彼の亡き母のことだ。哀韻あいいん切々として彼の声から悲しみが流露していく。彼女もまた彼の境遇を思い、涙していた。

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