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一期一会 第二部  作者: ヤルターフ
第二編 純情詩篇
32/76

シャノワの憂鬱 2

「三十万ドル、これ以上ありますか?」

「四十万!」

「五十万!」


 簡単に平民の十年は楽に暮らせる値段が飛び交う中、冷然として一人の声があがった。


「百万」


 レウレトがそう言うと、さっきまで札を上げていた参加者が一斉に降ろしてしまった。この調子で彼は残りも全て落札して手続きを従者に任せると、さっさと会場をあとにした。この時に買われた一人がシャノワである。彼にはドッグコレクターという名称がついて、死後しばらく凡百の伝記作家が名誉をおとしめていた。しかしそれには理由があって、地位や階級を獲得するのと同時に不必要な讒言ざんげんを受けないための手段でしかなかったのだ。ただ一番の理由は彼の人格形成に重大な影響を与えた事件があって、以降こうして頻繁に競売に参加しては養子として引き取り、教育を受けさせるなどしていた。のちにレウレトの遺産とも呼ばれた彼らは政治、経済、文芸、音楽と多岐に渡って活躍しており、幾百もの証言や逸話が現在もなお残されている。


 レウレトが自治領区の政治を執り行っている時、自身の働く統領府とうりょうふの近くにある小学校に子供達を通わせていた。そしてシャノワもまたこの学校に編入した時、彼女はいつも絵を描いている男の子を気にしていた。双眸そうぼうたまのように、碧青の瞳は爛と輝いていて、体の線は細く、肌は軽く焼けて健康的な印象がある。銀髪直毛、長さはセミロング。白、または水色のワイシャツを着て、黒のサスペンダーに膝丈までの半ズボンを履いた少年は名をアルバという。彼に興味があって話しかけようと探していたが、昼休みに教室を訪れたが不在で、学校が終わるとさっさと家に帰ってしまう。しかし卒業式から帰る時、思いもよらぬことが起こった。彼女がいつも気にしていたアルバから素敵なプレゼントをもらったのだ。そうして彼女は自室の壁に飾って宝物にしていた。


 小学校を卒業した彼女はレウレトに恩返しをしようと、メイドとして彼の屋敷で働くことにした。この申し出を聞いたレウレトは反対していたようである。だが、


「社会人たるもの、教養は不可欠だ。教養は身を助ける。何か一つでもいい、メイドの仕事をしながら手に職をつける勉強をしなさい」


 そう言ってしぶしぶ彼女の要望を受け入れ、屋敷の敷地内にある寮の一室を与えた。


 屋敷に勤めて一年が経過した。彼女は御屋形様の言い付けを守って栄養士の資格を取得するべく、買い出しや仕事の合間を見つけては百科書店に通っていた。とある休日、シャノワはあらかじめ下調べしておいた資料を買いに百科書店に向かおうとしていた。屋敷を出てわんわんお広場に差し掛かった時、ふと彼女の目にあるものが留まった。まだ春の浅い三月初旬、わずかな肌寒さとちらちらとほのかに照る太陽の下、噴水を挟んだ反対側にどこかで見た覚えのある少年がスケッチブックを持って、何かを描いている。銀髪は光に当たって薄紫色に輝き、傍らには幼い手に似合わない分厚い本を読んでいる子供が座っている。少しく目を凝らしていると、はっとして彼女は思い出した。


――アルバだ!

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