ル・プティ・カポラール 8
ロゼッタは人間達と接触しないよう、森に結界を張り、エルフと共に静かに暮らしていた。そんなある日、森を散策していたロゼッタは一人の青年が倒れているのを見つけた。エルフの反対をよそに彼女は青年の息をしているのを確認して、家に連れて介抱する。そのおかげで青年は意識を取り戻し、自らをフィルと名乗って助けてくれたことを感謝した。ロゼッタは人間を恐れていたが、フィルと会話を重ねるうちに心を開いていく。そうしてフィルの純真無垢な心に触れ、やがて彼女は恋愛の情を抱くようになっていった。
オルゴールの奏でるような日々が早々と過ぎて、傷を癒したフィルは外に帰ろうとする。エルフ達と暮らしていたロゼッタはフィルを愛するのあまり、共に森を出ていった。やがて二人は夫婦となり、ロゼッタは双子を出産した。しかし双子の耳は人間のそれでは無く、大きな犬の耳だった。ために他の人間達はフィル一家を忌み嫌い、迫害を加える。そうしたなかでも夫婦は懸命に愛児達を守っていた。
双子が成長して少年になる頃、人間達は戦争を起こした。戦いに巻き込まれないためにフィルは妻と子供達を連れて二人の出会った森へと赴く。けれども森に住むエルフ達はフィルと二人の子供が住むことを拒絶した。フィルはあまりに彼女を愛していたから、子供達を必ず守ると約束してロゼッタに別れを告げる。そしてフィルと子供達が森を出るのを見届けると、エルフ達は古の魔法を行使して業火の届かない空へと大地を浮かべた。
雨の日も風の日も、ロゼッタはフィル達を空から見守っていた。フィルは愛する子供達を守るべく日々戦っていた。そして早く戦争を終わらせて、愛するロゼッタを迎えたいと祈っていた。だがある日、とうとうフィルは敵に捕らえられ、処刑されてしまう。それを見たロゼッタは失意の底に落とされた。フィルのいない、この世界に寂閑として生きるより、死して彼のいる世界に逝くことを選び、ロゼッタは自らその身を下界へと投じた。至聖神は一人娘のロゼッタを亡くしたのをいたく痛心した。その涙がテラを包むほどの大洪水を起こし、力を合わせて生きていた双子は別れ々々になってしまう……。
この物語は生き別れになった弟と、エルフ達の住む大地を捜し求めた冒険譚である。
× × ×
序章を読み終えて、プティが早くしろとオメガの肩を叩いては急かしている。オメガとプティが今まさに本の世界に没頭するなか、元いた外の世界から誰かが呼ぶ声がした。
「オメガ君、いらっしゃい」
「ユウちゃん! こ、こ、こんにちわだお」
「どうしたの、そんなに慌てて?」
「な、なんでもないんだお!」
「オメガ君、その耳の下に隠れてるのは……、なに?」
言ってユウが指差し示すと、オメガの犬耳の下にはプティが隠れていて、小さな丸しっぽを震わせている。
「あっ! こ、これは、その……」
「ふうん……、わたしに内緒にすんだ?」
「あ……、う……」
「いいもん、みんなに言いふらしちゃうんだから」
「わ、わかったお! ユウちゃんにだけ話すお! そのかわりみんなには内緒にするんだお」
「わかったわ」
「プティ」
呼ばれてプティが恐る恐る頭を出してユウの様子を窺っている。
「ユウちゃんにご挨拶するお」
言われてプティがユウの前にふわふわと近づいていく。
「よろしくね、プティ」
ユウが頭を撫でると、プティは体を宙返りさせた。




