表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一期一会 第二部  作者: ヤルターフ
第二部 アルバとオメガ
3/76

行方不明 3

 戦後間もない時期の酒場と言えば、現在に見られるような派手なネオンが光る看板は無く、入口にランタンをぶら下げてあって、その明かりを使って看板を照らしているのがほとんどである。いまとなってはごく少数を除いて、こういったこじんまりとした酒場はあまり見かけない。ちょうどバルバロッサとロンシャンが訪れた酒場も先のようなもので、一見して外観は住居そのものである。雰囲気を演出するために照明を落とした店内に入ると、木目調の古めかしいカウンターにはバーテンがグラスを磨いていて、奥でマスターが切り盛りをしている。そのバーテンにバルバロッサが声を掛けた。


「ドンカスター様と話していたという男はいらっしゃいますかな?」

「ああ、居るよ、カウンターの奥だ」


 言って目配せをして顔を傾ける。バルバロッサが礼を言ってチップを渡しつつカウンターの奥を見やった。男は灰色の帽子を被り、黄色くなった白シャツにネズミ色のズボンを履いている。シワだらけのシャツはズボンからはみ出ていて、椅子の背もたれには着古したフロックコートが掛けてある。


「ロンシャン様、ここはおまかせ下さい」


 バルバロッサが耳に手を当てて小声で伝え、ロンシャンが小さくうなずく。そうしてバルバロッサが男に近づいて、こう尋ねた。


「よろしいかな?」

「フンッ、好きにしろ」


 男の了解を得ると、バルバロッサが男の左隣の席に座り、ロンシャンはバルバロッサの左隣に座った。そうしてしばらくしていると、グラスを持ちながら男がマスターに向かって怒鳴りだした。


「酒持ってこい!」

「ツケを払えば出してやるよ」

「あんだと? いいから持ってこいよ!」


 そう叫びながら男が乱暴に持っていたグラスを下ろそうとした時、バルバロッサがさとすようにゆっくりと口を開いた。


「もし」

「あん?」

「良ければ一杯おごりましょう、どうです?」


 突然にバルバロッサの提案を聞いて、男が顔をきょとんとさせている。しかしすぐにブルドックのような顔に野暮ったい笑みが浮かんだ。


「ヘヘッ、そいつはありがてえ。最近のおれはツイてやがる」

「マスター、彼に好きなものを」


 言ってバルバロッサが一枚の金貨を渡すと、男のグラスに酒が注がれた。


「タダで飲む酒は格別だぜ……」


 言って男が小指だけ立てて続けた。


「後ろにいる女はあんたのコレか?」

「ええ、まあ……」

「いい趣味してるじゃねえか、でもなあ……」

「でも?」

「犬じゃなけりゃあもっといいんだがなあ」


 そう言った途端、ロンシャンの表情が一変した。それを察したバルバロッサがロンシャンの手を取り顔を横に振る、それで彼女は怒りを呑み込んで、気を紛らわすためにバルバロッサの手を見つめた。


「一つ尋ねたいのですが」

「いいぜ、あんたにはおごってもらってるからな」

「この方を見ませんでしたか?」


 とバルバロッサが胸ポケットから一枚の写真を取り出して男に見せる。


「さあなあ……、もう一杯飲めば思い出すかもしれねえ」


 わざとらしく言う男の意を汲んで、バルバロッサが金貨を一枚テーブルに置いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ