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一期一会 第二部  作者: ヤルターフ
第二編 純情詩篇
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ル・プティ・カポラール 6

 ただどうしてもわからないことがあると、オメガがこうして来てはフェデリコに尋ねていた。だが決まってその返事はいつも一緒であった。


「あと十年したら、もう一度読んでごらん」


 読書尚友どくしょしょうゆう良書は人を善い方向に導くための指標となり養分となる。良書を読むことは心の畑を耕し、種を植え、光と水をやるようなものだ。種はやがて成長して実を結び、花を咲かす。心の豊かな人は胸中に田園を持っているのだろう。フェデリコは言わば人生の教師で、オメガは生徒としてこの教師を尊敬し、薫陶を受けていた。その二人がプティを挟み、生い茂る桜の木を眺めつつグラスを傾けている。


「暑い日に飲むサイダーは格別だお」

「ハハッ、まるで大人みたいなことを言うね」

「大人はなんて言うんだお?」

「大人はビールを飲んでそう言うんだよ」


 言ってフェデリコが缶ビールをグラスに注いで一口飲む。それからプティを手に取って言った。


「これはわんわんおだね」

「そうだお、名前はプティだお」

「ユウの持っているのより、少し小さいねえ」

「ル・プティ・カポラールから取ったんだお」

「なるほど、小さな曹長か。いい名前だね」

「おっおっお。そうだ、マスターに聞きたいことがあったんだお」

「なにかな?」

「空飛ぶ大陸って知ってるかお?」

「空を飛ぶ……」

「うん」

「それはたぶん、エルフルトかも知れないね」

「エルフルト?」

「そう、エルフルト」

「どんなとこだお?」

「はっきりしたことはわかっていないけど、いろんな説があるね」

「どんな説なんだお?」

「ちょっと待ってなさい」


 言ってフェデリコは立ち上がって、書斎にいってしまった。それを確認してプティがオメガの小さな膝小僧をちょいとつついた。


「どうしたんだお?」

「小さいって言われてショックだお」

「仕方ないお、でもマスターがいい名前って言ってたお。だから機嫌なおすんだお」

「わかったお、あとサイダーくれお」

「いいお」


 オメガがグラスを傾けてプティが顔を突っ込ませる。そうしてチャッチャッチャッ……、という音のあとオメガに顔を向けてこう言った。


「暑い日に飲むサイダーは格別だお」


 そんなやり取りをして待っていると、フェデリコが手に一冊の本を持って戻ってきた。


「おまたせ」

「それはなんの本だお?」

「これはエルフルトを探す旅に出た、一人の男の冒険譚だよ。いろんな説があるけど、エルフルトはエルフ族発祥の地ではないかと言われてるんだ」

「ふうん」

「当時、初めて出版された時は飛行機の無い時代でね。単なる空想科学小説としか見られていなかったんだよ。ところが最近になると飛空船という乗り物が出来て、空を移動する大陸を見たという目撃者が増えてきた」


 うんうんとオメガが真剣な表情をしてうなずいては聞いている。なおもフェデリコは続けた。


「そしてこの本に書かれているものと、人々が見たものは外観だけだけど、酷似していたんだ。僕もその大陸をこの目で見たことがある」

「ほんと?」

「ああ、本当だとも。もう十年も前かな……、月の明るい夜だった。甲板に出て見張りをしていると、急に大きな雲に覆われて、そしてその雲が晴れると緑色の光を放った、とんでもなく大きな物体が現れた!」

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