ル・プティ・カポラール 4
窓外にカラス鳴き日が暮れる。寝室の真ん中で、部屋が薄暗くなっているのも気づかずに、オメガはわんわんおに語っていた。そして語り終えて本を綴じると、わんわんおはふわとオメガの肩を離れ、部屋中を飛び回っていた。
――ああ、ぼくはなんて運がいいんだ。前の主人はなぜか忘れてしまったけど、別れた時、ぼくはものすごく寂しかった。でも、この新しい主人はきっとぼくを大切にしてくれるに違いない。なぜならこんなに素敵な名前をくれたのだから!
ひゅーっ、という音と共に犬耳をぱたつかせてわんわんおが卓袱台の上に降りてきた。
「ありがとうだお!」
「どういたしましてだお」
「でもやっぱり名前長いお」
「そうだお、だからプティはどうかお?」
「プティ……」
「うん」
「気にいったお! ぼくの名前はプティだお! オメガ、ありがとうだお!」
* * *
オメガの話を聞いて、やっとアルバは納得した表情をして言った。
「だから最近食材の減りが早かったんだな」
「それは正直すまんかったお」
とプティ。
「ニーニごめんだお」
とオメガが答えた。
「うーん……、まあしょうがないか。それで、パーパを探すってどうやるんだ?」
「顔を知ってる人が名前を言えば捜せるんだお」
「そうなるとぼくしかいないな……、よし」
そう言うとアルバはソファに座り、プティは地図の上に待機し、オメガはプティの傍らに座った。
「プティ、がんがれお」
「がんがるお!」
「じゃあいくぞ……、パーパはどこ?」
アルバの問いに答えてプティが回転する。徐々に加速して、そしていつものようにピタリと止まった。果してその向きは真上ではなかった。プティはまっすぐ西を指している。かと思えば東に向きを変え、今度は南へと向きを変える。その様子はさながら磁場の乱れた場所で使うコンパスのようだ。
「どうなってるんだ?」
アルバが不思議そうにしてオメガに質問する。
「プティ、どうしたんだお?」
オメガが心配そうに訊くとプティがくるくると回転しながら答えた。
「あちこち移動してるお」
「あちこちって?」
「最初は地中海だったお。でも次は北米大陸、その次はオーストラリア大陸だったお」
「何ヶ所もあるってことかい?」
「違うお、居る場所自体が空を移動してるお」
「ふうん……、パーパはその大陸に居るのかい?」
「いるお」
「パーパは生きてるんだね?」
「うん」
「オメガ! パーパは生きてるって!」
「やったお!」
「でもどうしてパーパはそんな所にいるんだろう……。オメガ、空を移動する大陸って知ってるか?」
「わからないお、でも百科書店のマスターに訊いてみるお。マスターはなんでも知ってるんだお」
「わかった。ありがとう、プティ」
言われてプティが体を浮かせながら頭を屈め、そこからビシッと体を垂直に立てた。
「オメガ、これは?」
「プティは敬礼してるんだお」
「なんで?」
「ニーニがこの家で一番偉い人だからだお」
そう兄弟とわんわんおが話していると、ふいにプティが体を玄関に向けて言った。
「誰か来るお」
「シャノワじゃないかな」
「まだ内緒にしといてお、またね」
そう言ってプティが本棚に戻っていき、その直後にインターホンが鳴った。




