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一期一会 第二部  作者: ヤルターフ
第二編 純情詩篇
23/76

ル・プティ・カポラール 1

 アパートに戻ると、オメガは寝室に行って本棚から世界地図とコンパスを取り出した。そうしていそいそとリビングにある卓袱台の上に準備を始めるオメガにアルバが訊いた。


「なにやってるんだ?」

「これでパーパの居場所がわかるんだお」

「どうして?」

「魔法使いのおじいさんがくれたわんわんおが教えてくれるんだお」


 そう言ってオメガがやまびこの掛け声を出すように、


「おっおー!」


 と呼んだ。しかしいつまで待てども兄弟のいる部屋に変化は見られない。しびれを切らしたアルバがどうしたんだ、と言おうとしたその瞬間、


「おっおー」


 という小さな声が寝室から聞こえてきた。そして兄弟のいるリビングに卵のようなフォルムをした木彫りのわんわんおがふわふわと浮いて来て、卓袱台に小さな体を置いた。


「おはようだお、プティ」


 オメガが挨拶をすると、プティと呼ばれたわんわんおが返事をした。


「おはようだお」

「ニーニだお、ちゃんとご挨拶するんだお」


 オメガがそう言うと、プティがふわふわとアルバに近づき、くるりと宙返りをして言った。


「プティだお、よろしくお」

「よ、よろしく……」

「プティ、おいで」


 呼ばれてプティがふわりとオメガの手のひらに乗った。


「ちゃんと挨拶できたね、プティえらいお」

「おっおっお!」


 そう言って自慢げにプティが短くて丸いしっぽを振っている。童話の世界に迷いこんでしまったかのような顔をしてアルバが尋ねた。


「これって、わんわんおだよな?」

「そうだお」


 とオメガが答える。


「なんで言葉を話せるんだ?」

「さあ?」


 と今度はプティが答えた。釈然としない顔でアルバがこの現状を整理していると、ふいにオメガが厳めしい顔をして、


「アルバ君、まあ落ち着いてお茶でも飲みたまえ。これから我が輩が順々に説明していこうではないか」


 そう言ってプティとの経緯を話しはじめた。


          *          *          *


 幼少期のアルバの趣味が絵画であったように、オメガにも読書という趣味がある。特に伝記を読むのが好きで、最初に買って読んだ本は信長伝だった。そうして豊太閤ほうたいこうと知り、海を渡って三国志を知ったオメガは曹操そうそうという稀代の英雄に出会い、諸葛亮しょかつりょう神算鬼謀しんさんきぼうに目を見張った。


 ある日、自分の誕生日に歌った喜びの歌の作曲者が誰なのかと疑問に思い、調べてみるとベートーベンだとわかった。楽聖の、"苦悩からやがて歓喜へ"という人生は幼いオメガの心を大きく震わせた。そしてこの楽聖がいた十八世紀末、あの虹を追い求めた革命児が颯爽と出現した。かの英雄、ナポレオン=ボナパルトである。コルシカ島生まれの一青年士官から身を起こし、フランス革命という風雲にし、しかして皇帝に。だがワーテルローにて一敗地に塗れ、セントヘレナに流島せられて幽囚の二千日。この英雄の歌詩かしのような生涯にオメガは魅了された。そしてナポレオンがプルターク英雄伝を読んだように、オメガもまたナポレオン伝を読み耽った。ただ幼いオメガ少年が読む本は難しい字が多い。そのため、わからない言葉が出る度に誕生日に母親からもらった辞書を開いていた。

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