親友との再会 4
玄関の前にいるオメガが持っていた丸椅子を置いてドアの鍵を開けると、先にアルバが中に入ってミーファを促した。彼女は中に入り、苦楽を分かち合った友の姿を探した。だがこの狭い部屋に親友の姿はおろか、声すら認めることができない。
「どうぞ、掛けて下さい」
そうアルバに促されてミーファがソファに座ると、戸棚から煎餅を出すオメガに声をかけた。
「きみがオメガ君ね」
「そうだお、でもなんで知ってるんだお?」
「わたしときみのお母さんとは友達だからよ」
「友達だからか」
「お母さんは買い物かな?」
「違うお」
「じゃあ、どこに居るの?」
「天国だお」
「えっ?」
「お空の上で、ぼくらを見守ってるんだお」
聞いてミーファが顔を向けると、アルバはただうつむいていた。
「いつ……?」
「去年の春です」
「そんな……、じゃあ、あなた達は二人だけで……」
「はい、ぼくが働いてオメガを育ててます」
「詳しく訊かせてくれる?」
「ええ……、オメガ、向こうで本でも読んでいなさい。ぼくはミーファお姉さんと大事な話をするから」
「わかったお、でもニーニ、今日は……」
「わかってる」
イェオーシュアが死んだ日の事から兄弟達がどんなふうに生活していたかをアルバは話し、ミーファは時折うなずきつつ聞いていた。
「大変だったのね」
「確かに母を亡くしたのは辛かったです。でも今は二人で楽しくやってます……。今日は母の月命日なんです。よければ緒に墓参りに行きませんか?」
「ええ、もちろんよ」
それで三人はイェオーシュアの眠っている墓に向かった。その道の途中、兄弟は今もなお愛してやまない母の為にと、もう一人は友の為にかすみ草を買った。
――なぜ、自分に連絡してくれなかった……。なぜ、自分を頼ってくれなかった……。どうして自分はまた友の困っていることを助けることができなかった……!
自身を呪詛しながらかすみ草を携えて、ミーファが遺児達の後ろについていく。教会の鐘が昼を伝える頃、三人は共同墓地にある、イェオーシュアの墓前に来た。梅雨は明け、碧天一片の雲は無い。寂漠として辺りに葉の擦れるものしかない中、小さな桜の木の下に粛然として在る墓碑に名が刻まれて、親友は今世ではさめない眠りについている。
美しきイェオーシュア。彼女の精神はその容貌のように美しい。あの苦難に放り込まれた仲間達の誰よりも強い精神だ。愛しい我が子を残す彼女の想いは幾許りか。耳朶に残るは自身を励ます友の声、脳裏には友の笑顔が映じてくる……。イェオーシュアの魂に触れるかのようにして、ミーファが墓碑に刻まれた名を指でなぞった。そうして見つめるその目に溜まった涙はこぼれ落ち、彼女の頬を濡らしていた。
「ごめんね……、ごめんね……」
ミーファが墓標を抱えて泣きながら何度も謝る光景を目にして、アルバは幼き頃を思いだした。 いつの日だったか。降りしきる風雨の中、母親がああして自分を抱いていたのを。いつの日だったか。薄暗い部屋の中、ミシンを前にして一人泣いていたのを。その時と同じようにして、アルバが黙ってミーファにハンカチを差し出す。
「ありがとう……」
奇しくも母親と同じようにミーファが言うのを聞いて、アルバは満顔に涙を貯めてうなずいた。そうして兄弟もまた手に持った花束を墓碑に捧げ、手を握りあい、天にいる母親に誓った。
墓参りを済ました三人が広場に着いた時、ミーファが言った。
「アルバ」
「はい」
「少ないけど、生活の足しに使って」
ミーファがアルバに封筒を手渡して続ける。
「それとこれを、わたし達の仲間を支援する団体の連絡先と住所が載ってるわ。困ったことがあったらいつでも連絡して」
「ミーファお姉さんはこれからどうするの?」
「わたし達は世界中を旅しながら仕事をしていて、それと同時に人捜しもしてるの」
「誰をですか?」
「あなた達のお父さんよ」
「パーパを?」
「ええ、それで明日一番の船に乗って共和国に行かなければならないの」
「そうなんだ……、パーパは生きているんですか?」
「わからないわ……。でもあなたのお父さんが死んだという情報を聞いたことは無いから、生きてるかも知れない。わかり次第、すぐに連絡するわね」
「はい」
「じゃあ……、ここでお別れね」
「また皇国に来たら連絡を下さい。その時に母がどんな人だったか教えて下さい」
「わかったわ、それじゃあね」
「ミーファお姉さん、バイバイだお」
「オメガ君、バイバイ」
そう言ってミーファは兄弟の前から立ち去っていった。




