親友との再会 3
「ところで、滞在はどのくらいだ?」
「一週間で、兄さんのリサイタルを三日間やることが決まったんだ」
「そうか、ならちょうどいい。明後日にルクレール家主催のパーティーがある。そこに貴下を招待したい。プラシドの歌を天下に知らしめたいのだ」
「いいんですか?」
「おべっかを聞くよりはプラシドの歌を聴いていたほうがよっぽどマシだ。オレはこういう付き合いは嫌いだが、治世を安んじるものとしては欠かせないらしい。できることならさっさと引退して、百姓をやりたいものだ」
「ありがとうございます! きっと兄さんも喜びます。しかし……、百姓ですか?」
「ああ、百姓だ、百姓はいいぞ」
少年のように笑みを浮かべて、レウレトが語ってみせた。
「朝早く起きて、手入れをして水をやる。土の状態を見ては肥料や水を調節する。そのあと朝昼まとめて食事をする。子供は学校に行ってるから可愛い嫁さんと二人きりだな。そのあと少しだけ二人で昼寝して、夕方まで働いて、家族で夕飯をして、一緒に風呂に入って、それで一日が終わる。そうして国に対して義務を果たすと、オレは爺様になって孫の面倒を見るんだ。そのあとオレは家族に看取られて死ぬ。どうだ? 幸せだと思わないか?」
この発言は真に心から言っているものだろう。彼は勲章より、純愛を欲していたのだ。
「いいですね! レウレト米を食べてみたいもんです」
「レウレト米か、そいつはいい!」
言ってレウレトが呵々《かか》と大笑した。
「じゃあ大将、そろそろ行くわ」
「ああ、また来てくれ。今度お前たちが来た時にはこの自治区をもっと素晴らしいものにしよう」
「はっ! 楽しみにしております」
「パーティーの日時は追ってホテルに招待状と共に送る。プラシドによろしく伝えてくれ」
「ではまた」
ソラリスとミーファは一礼して公務室をあとにした。
三人は欧州共和国に向かうまで二日ほど猶予があったが、ソラリスとプラシドはスケジュールの確認、マスコミの対応と忙しくしている。そんな中、ミーファにはどうしても会わなければならない人がいた。かつてからの親友イェオーシュアである。ここ二年は連絡もできず、手紙すら出せていなかったが果たして元気でいるだろうか。別れた頃のアルバは小学生で、今は中学生になり、オメガは小学生になってるのだろう。いきなり家に向かうのはまずいかも知れないが、行ったらきっとびっくりするに違いない。そんなことを思いつつ、お土産に何か買っていこうと辺りを歩き、わんわんお広場のベンチで一休みしていると、彼女の目に噴水の一隅でスケッチブックを持っている少年と、傍らに本を読んでる子供が映っていた。
――そうそう、ちょうどイェオーシュアの子供達もあれくらい大きくなってるんだろうなあ……。
そうミーファが口元をほころばせては感慨に耽っていると、つと彼女の脳裏に閃光が走った。そして衝動的に立ち上がり、少年達の方へと足を運ばせた。
「あの……」
「あ、いらっしゃいませ」
「ちょっと訊きたいんだけど」
「はい」
「アルバ、君?」
「そ、そうです。でも、どうしてぼくの名前を……」
「わたしはミーファ、覚えてる?」
アルバが記憶の糸を手繰ると、うっすらとだが彼女が誰かわかった。
「ミーファお姉さん?」
「そう! 覚えててくれて嬉しいわ。イェオーシュアは元気?」
母親の名を耳にした途端、アルバの顔から笑みは消え、瞳は曇ってしまった。
「ここではなんですから、家に来ませんか?」
「え、ええ……、わかったわ」
アルバのただならぬ様子を察しつつ、ミーファは返事をして兄弟のあとについていった。若葉繁る凱旋通りを三人が黙して歩いていく。以前見た街並みはすっかり変わり、時の流れを彼女に感じさせていた。住宅街に入り、少し入り組んだ所に兄弟の住むアパートがある。その佇まいは或りし日に互いを抱擁しあい、再会を誓ったのを彼女に彷彿させていた。




