行方不明 2
ロンシャンの部屋を出た後、彼はドンカスターの部屋に赴いて、ドアをノックをした。けれども返事はなかった。念のためにもう一度ノックをするが、それでも返事がない。不審に思い、ドアを開けて部屋に入る。そして光を入れるためにカーテンを開けて、部屋を見渡してみるが、やはり誰も居ない。
――これは明らかにおかしい……。
そう思いつつ彼があらためて部屋を見渡す。よくよく観察してみると、身の回りの荷物と最近購入したステッキが無い。ドンカスターが夜遅くまで作業をしていた机の上を見ると、小さなメモ用紙があった。それを手に取って見ると、
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あとはまかせた。
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とだけ、毛筆で記されてあった。
* * *
気品というのは言葉遣いと物腰と、その振る舞いに顕れてくる。ナイフとフォークを優雅に使って、目玉焼きを切りながらアプリコットが言った。
「ロンシャン、はしたないですよ」
「なにが?」
「食事の時くらい、なにか履きなさい」
「家にいる時くらい……」
と、ロンシャンが口答えしようとした時にバルバロッサが急ぎ足でリビングにやって来た。
「お食事中失礼致します、ロンシャ……」
そこまで言ってバルバロッサの時が止まった。なぜならロンシャンの着衣は大きめのティーシャツのみで、おそらく下は履いていないからだ。
「ロンシャン様、目の毒です。なにかお履きになってください」
「ああ、ごめん」
バルバロッサが顔を伏せているのを見つつ嫣然とロンシャンが着替えにいく。ふとアプリコットが怪訝な顔をして口を開いた。
「どうしました?」
「ドンカスター様が、いらっしゃいません」
「散歩ではなくて?」
「はい、これが書き置きされていました」
言ってアプリコットにメモを渡した時、ちょうどロンシャンがジャケットを手に持って着替えから戻ってきた。
「どうしたの?」
「ドンカスター様の姿が見当たりません」
アプリコットから受け取ったメモを見てロンシャンの顔色が変わった。
「そんな……」
「とにかく、ドンカスター様を捜しましょう」
「私はここで待ちつつ、思い当たるところに連絡します」
「わかったわ、わたしはバルバロッサと一緒に外を捜してみる」
このような経緯があって、ロンシャンとバルバロッサはドンカスターを捜しに桜華街を回った。だが日没になっても見つからず、やむなく警察に捜索願いを出して、そのあと家に戻ったが、結局ドンカスターは帰って来なかった。
三人は寝ずの番をして情報を待ったが、明くる日になってもドンカスターは帰ってこない。その翌日に少しでも多くの情報を入手するべくロンシャンとバルバロッサは二手に分かれ、街にある店を一軒ずつ捜した。そうして時計の針が真上に向けて重なった頃に二人は合流した。
「ロンシャン様、一つ情報を得ました」
「ほんと?」
「はい、店をまわったところ、酒場でドンカスター様を見たという者がおります」
「じゃあ、いますぐその酒場に……」
「店のバーテンによりますと、男は夜になれば来るということです。頃合いをみて店に伺いましょう」
「わかったわ」
それで二人はいったん帰宅して夜になるのを待ち、それからドンカスターらしき人物を見たという酒場に向かった。