親友との再会 1
アージェンティーク兄弟の生活している当時のシェイン自治領区がどんなものだったかここでは少しく触れたみたい。場所は欧州から極東と呼ばれる皇国にあり、地図を見ると東海圏と近畿圏の境にあたる旧三重県に相当する。米帝主導でその自治が施行され、この自治領区に司法、立法、行政の三つの権限を一つに集約した機関である統領府を設置し、その執政官として米帝から一人の男が来邦した。赤獅子公、レウレト=フォン=ルクレールその人である。
軍人時代の功績が認められ、英雄王と謳われたランカスター一世の崩御なされたのち、トロイカ体制を敷いて米帝の第三統領に就任した。
この自治領区での彼の仕事はなにか。それは混沌を排し、秩序を創ることだ。混沌とは犯罪、賄賂、物価の騰貴、教育の不備、文化の衰退、生活の不安定である。民心は戦争に辟易としており、世間には厭世気分が充満していた。さらに治世の乱れ甚だしく、政界に巨人無く、ために政治は空転し、全くの無秩序であった。毎日食事がしたい。雨風をしのげる家と、寒さから身を守る服が欲しい。犯罪に震えることの無い安全が欲しい。誰かこの紊乱を正すために鉄腕を振るう人間はいないのか。最も偉大で最も力のある人間はいないのか。そう民衆は渇望した。そういった切なる要望に応えるべく、彼は仕事に着手していた。
レウレトがシェイン自治領区の執政官に赴任して六年目のある日、二人の客人が統領府を訪れていた。一人はイェオーシュアの無二の親友ミーファで、いま一人は集落でアルフレッドと狩りをしていたソラリスである。イェオーシュアと別れて皇国を発ったミーファは米帝に降り立った。そして歌手活動をしていたソラリスとプラシドを見つけることができた。そうして三人は米帝各地を周り、歌手活動の傍らにアルフレッドを探していたのである。いや、むしろアルフレッドの探索が目的と言っていい。親シェイン派で米帝の第一統領となったジュスト=ドルオールがその話を聞き、人生の師匠であるドンカスターの探索も併せてアルフレッド探索の任を与え、レウレトに会うための紹介状を書いて持たせた。なぜならアルフレッドは軍に所属しており、軍に関する特秘事項はすべてレウレトが管理していたからだ。
その紹介状を携え、ミーファとソラリスの二人はレウレトの働く統領府の前に来た。正面ロビーには緋色の軍服に顔の側面を覆い隠した軍帽を被り、腰に巻いたホルスターに小銃を挿している兵士が三人立っている。二人が身分を証明するIDとパスポートを兵士に提示すると、五十ミリ砲を防ぐことができる特殊強化アクリルの自動扉が開いた。いま二人が居るエントランスは総大理石の床に建物を支える円柱が立ち並び、黒で統一された簡素な造りになっていて、中央には犬耳をした受付嬢が座っている。そこに向かい、ソラリスがジュストの紹介状を渡しつつルクレール公に会いたい旨を伝える。少しして左胸に赤獅子の刺繍を施した黒服を纏った白髪の老紳士がつかつかと二人の元にやってきた。
「ミーファ様とソラリス様で?」
「デューイさんじゃないか! 元気そうだね。大将は相変わらずかい?」
「おおソラリス様、お久しゅうございます。御屋形様はただいま会議中ですので、いま暫くお待ち下さい」




