散雨月下 3
「はっ! 去る六月二日、私はいつものように本屋にて対象と話していると、司令官殿の好きな食べ物は何かと訊かれました。私は玉子焼きと答えると、対象はメモしていました」
「それは本当か?」
「事実です」
「天運我にあり! オメガ君、勲章ものだぞ」
「光栄であります」
と、オメガが敬礼してさらに続けた。
「司令官殿、妙案がございます」
「うむ、申してみよ」
「少し早いですが、私は糧食を補給すべく、買い出しに行きます。その帰りに対象を誘い、夕食を共に摂るというのはいかがでしょう?」
「名案だ! 貴君の頭脳に感服したぞ」
「恐れいります」
「よし、次に成功した際、対象を迎える為の対応をどうしようか。忌憚無き意見が聞きたい」
「司令官殿、ここはやはり来訪を予期してなかった態でいくべきでしょう。したがって服は対象に清潔感を与えるようなもの、それでいて生活感を漂わせる服装がいいかと」
「ふむ、これじゃまずいか?」
そう言ってアルバ司令官がオメガ参謀に向かって両手をひろげて見せる。
「まずいですね。ノースリーブにトランクスはさすがに……、ドン引きされること必至です」
「ドン引きは、いけない!」
辞色決然とアルバ司令官が叫んで、どうしたものかとリビングを歩いている。オメガ参謀が挙手をして、こう提案した。
「上はワオレンジャーティーシャツ、下はホットパンツというのはいかがでしょう?」
「なぜ、それを選んだ?」
「わんわんおの可愛らしさが対象の警戒心を和らげ、それと同時に親近感を与えます。そしてホットパンツはいかにも部屋着という印象を与え、且つ外出時には見せない太ももを見せることにより、対象の司令官に対するイメージに隔たりが生じます。いわゆるギャップです。よって、この効果は絶大であるかと」
「オメガ君」
「はっ!」
「君は天才だ」
「ありがとうございます」
「服は決まった、あとは対応だが……」
「先ほども挙げた通りに知らぬ態でありますから、あくまで自然なのが一番かと。ですので夕食も普段通りのもので……」
「なるほどな、しかしせっかく来てくれるとするなら、何かもてなしたいと思うのが人情というものじゃないか?」
「おっしゃる通りです。ここは一つ、カレーを作ってはどうでしょう。司令官殿のカレーは母上も絶賛しておりました」
「カレーか、懐かしいな……。母上と食べたカレーの味をまだ覚えているぞ」
「私も忘れようがありません……」
「よし、今日の夕飯はカレーにしよう。君は大事な任務があるから、米研ぎは私に任せなさい」
「はっ! このオメガ、必ずや使命を果たしてご覧にいれましょう」
「うむ、ではオメガ君、まとめたまえ」
「まず、私が買い出しに行き、帰りに対象に接触、その間に司令官殿は服を着替え、洗米を済ませ、ごく自然に対象を迎える」
「ごく自然、とはなにをすれば良いのだ?」
「昼寝をしてみてはどうでしょう」
「昼寝か、努力しよう。では本日ヒトサンサンマルに於いて、シャノワ招待作戦を実行する。各自、英気を養いつつ待機せよ。オメガ君の健闘を期待する。以上!」
司令官と書記兼参謀は互いに向かい合うと敬礼した。
「あーおもしろかったお。ニーニ、きっとうまくいくお」
「オメガ、頼んだぞ」




