散雨月下 2
言ってオメガが刑事の犯人に証拠を見せる風にして、正の字を書いたノートをアルバに向ける。
「ほんとだ……、って数えるなよ」
それで一旦は兄弟の会話が途切れた。しばらくしてアルバが二十六回目のため息をすると、オメガが独り言を呟いた。
「シャノワお姉さん」
「うっ! どうしてわかった?」
「シャノワお姉さんが帰ったあと、いつもため息してたお。だからだお」
「そ、そんなこと……」
「そんなことあるお、あと寝言も言ってたお」
「な、なんて?」
「ああ……、シャノワ! って」
「う、うるさい!」
「ごめんだおっお、ねえニーニ」
「うん?」
「連れてこようか?」
「誰を?」
「シャノワお姉さん」
「どこに?」
「決まってるお、家にだお」
「で、で、出来るのか?」
「できるお」
「ほんとか! でもどうして彼女のいる場所が……」
「いつも本屋さんで見かけるお、学校帰りによく話してるお」
「なんだって! どうしてそれを早く……。いや、そんなことはどうでもいい。それで、どうなんだ?」
「どうって?」
「なにか言ってなかったか? ほら、ぼくの事とか」
「かっこいい、って言ってたお」
かっこいい。この五文字を聞いて、アルバの心奥で燃え盛っていた炎が幾分かおさまった。
「他になにか言ってなかったか?」
「うーん……、ぼくんちに本がいっぱいあるって、シャノワお姉さんに話したお」
「そしたら?」
「遊びに来たいって言ってたお。だから連れてこようかって言ったんだお」
いまアルバに翼が生えたなら、一飛び十万八千里を往くに違いない。その感動も束の間、つとアルバがしかめつらしい顔をして、オメガに言った。
「オメガ君」
「なんだお?」
「作戦会議だ」
「わかったお」
そう言ってオメガはナポレオンを閉じて地図をしまい、リビングに卓袱台を置いてその上に別のノートを開き、"シャノワお姉さん招待作戦概要"と書いた。アルバがすくとソファーから立ち上がって、後ろに手を組んでオメガに口授する。
「対象はいつ、本屋に現れる?」
「お昼過ぎであります」
「具体的には?」
「午後の二時から三時の間であります」
そう聞いてアルバが人差し指をノートに向けると、オメガはそれをメモした。この一連の流れはオメガが編み出した司令官ごっこというものである。司令官と書記兼参謀を演じるもので、暇な時に二人はよくこの遊びをしていた。
「ではその時間に本屋に行くとするが……、オメガ君に意見を求めたい」
「司令官殿」
と、オメガが挙手して意見を述べた。
「司令官殿が自ら赴くは下策、かえって警戒される恐れあり。加えて司令官殿は口下手でありますから、家に誘うのは難しいかと」
「口下手は余計だ、しかし一理ある」
「ゆえにこの私が行って、誘うのが上策かと。子供であればまず警戒されますまい。ですので司令官殿は待機されるのがよろしいでしょう。それと、一つ気になることが」
「なんだね?」
「個人的見解ですが、対象は司令官殿を気にしている傾向が見受けられます」
「なんだと? 詳細を報告せよ」




